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新しき刃の行方‐4


これといった緊急の指令もなく、静かに執務の筆を執っていたら窓から強い西日が差しこんできた。どうやら日が暮れ始めようとしているらしい。あまりにも強いその西日を遮ろうとカーテンを閉めようと立ち上がり窓際に寄る。雲がないからこんなに直で入ってくるのか、なんて思っていたら窓越しに映る庭園に人影があるのに気づく。カーテンを閉めようとする手を止めてその人影を見ると、見知った顔だった。その人影が動くと、奥にいたのであろうかもう一人の影が出てきた。こちらもまた見知った顔、というより見知りすぎた顔だった。その二つの影はなにやら話しながら歩いている。出てきた方向から考えると研修後なのだろうと思うが、お前は師団の方に戻らなくていいのかオルガ。団長がいなくても多少は平気かもしれないが、流石にこの時間には師団の方に戻るべきではないのだろうか。第一師団の団員たちを密かに憂いていると、見知りすぎた方の影がこちらを向いた。


…しまった。見すぎていたようで、慌ててカーテンを閉める。次会った時絶対ネタにされる、そんな心配しかしていなかったから私は知らない。窓の外で見知りすぎた影がほくそ笑み、そして見知った影が気に食わない顔をしていたことに。


* * *


あのあと、配置についていた各小隊が戻り、シューリも今度は迷わなかったようで無事師団室に戻ってくることができたので今日の任務は終了した。団員が退室していくなか、そういえば明日の研修の時間を聞いていないことに気づきシューリを探したが既に師団室にはいなかった。呼び出してもよいのだが今日は研修初日で、厳しいと噂されるあのオルガの指導だ。おそらく慣れない環境で疲れているだろう、その状態で呼び出すのは些か気が乗らない。先ほどのこともあって会うことは極力避けたかったが仕方ない、直々にオルガに聞くとするか。師団室に残る団員に労いの言葉をかけた後、扉をくぐり第一師団室へと向かう。途中、すれ違う者たちに挨拶をかけられる一方で隠れながらも蔑みの視線を感じる。もうどちらも慣れしまったことだから気にせず歩き続ける。第五師団室から第一師団室までは微妙に遠い。ようやく着いた時、一瞬足が止まってしまった。


なんで、ここにいるのだろうか。いや、今日の任務は既に終わっているから別にどこにいてもおかしくないのだが、彼女がここに来る理由はないはずだ。それに第五師団室から彼女に与えられている部屋に戻るとしてもここは通らない真逆の道のはずだ。では、何故?

その時オルガが私に気づいた。オルガは彼女の横を通り抜けこちらに向かってくる。そして彼女、シューリもまた彼に続いてこちらにやって来る。


「珍しいな、アリネがここに来るなんて」

「理由がない限りここに好き好んで来るわけないでしょ」

「それもそうだな。で、理由は」

「隣にいる子の明日の研修時間を聞きそびれちゃってね」

「ぷっ、馬鹿じゃねーの」

「うるさい、さっさと教えなさいよ」

「明日は今日と違って朝からですカトリット団長」


オルガの代わりに隣にいたシューリが答えた。明日は朝、か。何故シューリがここにいるのか知らないがどうせ大したことではないのだろう、研修の時間を聞けたことだし帰ろうとした時、私よりも先にシューリが一歩を踏み出した。


「では私はお先に失礼しますね、フォーレ団長、カトリット団長」


シューリはそう言い一礼をしてこの場を去っていった。シューリが去っていってしまったことにより気まずさが上乗せされた気がするには気のせいではないだろう。夕方の件もあるので大事に至る前にこの場から去ろうと背を向けたのだが


「そういやさっき窓から見ていただろ」

「なっ…なんのことかな」

「だから…、いややっぱいいわ」


ねちっこくくるかとばかり思っていたが、案外すんなりと引いた。あまり見ない姿だから違和感がすごいが、向こうから折った話を掘り返す必要もない。この話はここまでだ。悩みの種だったこの件が消えたことにより、背中は軽くなり再び振り返った。


「シューリは来ていたみたいだけど何かあったの?」

「別に大したことじゃないぞ、今日の研修での疑問を解決しに来たそうだ」

「へぇ、真面目なものだね」

「本当真面目だよ。研修の時間聞きそびれるようなどこかの団長さんと違って」

「あんたねぇ…、いい加減に」

「団長!」


いい加減にしろよ。そう言おうとしたが、師団室から出てきた団員の言葉のよってかき消されてしまった。言い争いを止めるために声をかけたのかと思っていたがどうやら違うようだ。団員の顔は曇っており、会話は聞こえないがあまりいい話題でないことは確かだ。証拠に、オルガの表情も先ほどまでのくだけた感じから徐々に硬くなっていく。団長階級だから聞けば一応は教えてくれるだろう。だが、聞く気にはなれない。緊急の命ならいますぐにでも告げるはずだ。つまり、いい話題ではないが緊急に命でもない。“邪魔したね”、それだけ言って私は第一師団室前から退いた。



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