新しき刃の行方‐3
ふぅ、とため息をつき二人を見る。シューリの方向音痴説には少し呆れるがとにもかくにもこれで第五師団の全団員が揃った。あまり気は進まないが、オルガの世話になってしまった。団長として礼ぐらいは言うべきであろう。
「とにかく、部下が世話になった。すまないな」
「気にするな。第一師団のミーティングが遅れてしまったとか俺全然気にしてないから」
いや気にしているだろ。これはあとで何かある感じだな…。そう考えてると、ぱたんと音がした。振り向くとオルガは既におらず、扉はきっちりと閉まっていた。ミーティングが遅れたとか言っていたから大方さっさと第一師団のほうに戻ったのだろう。オルガはアレでも最高責任者を兼ねている団長だ。その団長が遅くれてしまってはつく示しもつかないだろう。…やはり、部下とは言え悪いことをしてしまったな。
「団長?」
ある団員の私を呼ぶ声にはっとする。いかん、人のことについて考えている暇なぞない。私もれっきとした団長なのだ。オルガへの謝罪は頭の片隅に置いて、こほんと小さく咳払いをし、皆の前に立つ。シューリも他の団員に倣い一番後ろに並んだ。シューリを含めた全員が私の下す命を待つ。
「遅れてすまない。今日の業務について連絡する。まず、北および西区域担当は壱。南および東区域担当は参。私も含め、弐は緊急時担当。そして新人のシューリは壱とともに行動してもらうが、研修の時間になったら一言言って壱から抜けて構わない。各自用意が出来次第配置につけ、以上だ」
昨夜、シューリの位置についてあれこれ悩んだが、結局壱に預けることに決めた。壱は手練の者が多い。きっと彼女たちなら上手くシューリを導いてくれるだろう。次々と部屋を出ていく団員を見ていると、シューリがこちらに近寄ってきた。
「あの…、団長、遅れてしまってすいません」
「ん?気にするな。謝るぐらいならさっさと間取り覚えな」
「はいっ!」
「それと、壱といるから大丈夫だと思うけど、あんたは新人だ、何かあったらすぐ連絡しなさいよ」
「了解です!」
と、力強く意気込んだシューリもこの部屋から出ていき、もう部屋には私しかいなくなってしまった。さて、私も仕事をしなければ。手始めに師団のスケジュールを作成しようかと思ったが、ふと壁にかかる時計を見ると幹部定例会議の時間が迫っていることに気付く。スケジュール作成は後回しだ。会議に必要な書類を纏め私も部屋から出ていき、ついに部屋には誰もいなくなった。
* * *
各隊の団長が近況報告し国王様が今後の方針について述べ、会議はいつも通り何事もなく進み、先ほど無事幕を閉じた。今は師団室に戻る途中だ。スケジュールの作成とシューリのことについて頭を悩ましていると、隣にいた銀髪がこちらを向いた。
「どう?シューリちゃんは」
「あのな…今まで私は会議に出ていたのだぞ、どうもこうもないだろ」
「そうじゃなくて、礼儀とか人柄の方」
「ああ…、なるほどね」
死神としての腕じゃなくて礼儀の方か。それによく考えたら、まだ研修を行っていないからオルガも腕前は知らないはずだ。そしてシューリの振る舞いを思い出してみる。若いからか元気はある、乱暴な言葉遣いはない、上の者をきちんと敬うことも出来ている、方向音痴説が私の中で浮上しているが、おそらく思慮分別のある者だろう。
「そうだな…、今までの中ではマシな方ということは確かだ」
「へぇ、ならこれで腕もあったらなかなかの逸材ってことになるな」
「逸材は言い過ぎだろ、…まぁ、否定はしないけど」
「団長の座、危ないんじゃないですかカトリット団長様?」
今までの真面目な雰囲気はどこへ行ったのやら。真面目な顔つきで真面目な話をしていたはずなのに、隣のオルガはにまにまと笑っていやがる。それにしてもこいつの“カトリット団長様”呼びには少しばかり背筋が寒くなる、というより気持ち悪い。普段互いに呼び捨てしていることが上乗せにでもなっているのだろうか。国王様とこいつを除くほぼ全員からは姓で呼ばれているが、こいつに姓で呼ばれるのがこんなに違和感を覚えるとは思わなかった。ちなみに名前で呼ぶ理由は“男友達だから”だそうだ。いつか呪ってやる。
「その呼び方気持ち悪いからやめろ。それに別に団長の座なんて気にしていない。国王様の力になれるなら何だって良いからな」
私がそう答えると、オルガは面白くなさそうに“ふーん”と言っただけだった。その態度に腹が立ったが、曲がり角に着いた。
「じゃ、お勤め頑張ってくださいな」
とオルガは言い、角を右に曲がった。ああそうか、研修の担当だったか。この角を右に曲がった先には研修用の闘技場がある。角のおかげでいつものくだらない言い争いは無事止められた。私はそのまま真っ直ぐ歩き、第五師団室へと再び向かいだした。