新しき刃の行方
「というわけで、本日付で第五師団の配属となるシューリ=アルヘッドだ」
「はじめまして、オルガ団長がおっしゃった通り今日から第五師団の一員となりますシューリ=アルヘッドです!未熟ですがどうかよろしくお願いします」
先日国王様がおっしゃった通り、予備部隊から昇格してきた者たちが今日配属される。基本的に女性は黒隊には配属されない。女性の死神の多くはパトロール中心の白隊を希望する。私のように黒隊に属する女性は少ない。その少ない女性で構成されているのが私が団長を務めるこの第五師団だ。早い話が女しかいない部隊だ。女しかいないからと言って別段他の黒隊に劣るわけではない、と自分に言い聞かせているが本当かどうかは国王様しか分からない。そして真相を聞く勇気もない私は本当に臆病だと思う。こちらは残念ながら自覚済みだ。
オルガから受け取った書類に目を通す。
シューリ=アルヘッド、十六歳。両親ともに他界済み、か。この若さで死神となり部隊に配属、そして両親はいない。不思議と過去の自分と重ねてしまった。それはオルガも同じようで「お前と似ているだろ」と軽く耳打った。
齢九つの時死神になり、十五でこの第五師団の一員となった私とこの新人、シューリは似ていた。だが、似ているのは経歴だけのようらしい。
「新人ですが精一杯頑張りますっ!」
鮮やかな朱の色をした長い髪を結ったツインテールを左右に揺らしながら喋る彼女は男ならどきっとしてしまいそうな笑顔をしている。ちなみにこの場に男が1名いるが、こいつは変わり者の男なのでびくともしてない。その代わり、とでも言うのだろうか。もの凄く鬱陶しい。彼女と見比べて笑いを堪えるのやめろ。
「マジあの子可愛くね?お前のストライクなんじゃね?」
「棒読みで言うな。それに残念ながら私は男ではなくれっきとした女だ」
「え?お前が女?え、アリネって女だったんだ。俺てっきり女装癖のある男かとばかり思ってたわ」
「よし、いますぐあんたを女にしてやろうか」
「…そういうのが女らしくないって言ってるんだよ」
オルガのその言葉は予想以上に深く突き刺さり、言い返すことが出来なかった。言い訳がましいが、小さいときからこいつ、オルガといたのが原因かははっきりとは分からないけど他の同い年の女性と比べて言葉遣いが今なお非常によろしくない。知っての通り、オルガとは犬猿の仲に近い状態だ。言葉遣いを直そうとしても、オフでオルガと会えば八割以上の確立でくだらない言い争いになってしまう。そういうわけで今現在も言葉遣いは直ってない。むしろ前よりも酷くなっている気がするのは気のせいであってほしい。
「…っ、とにかくシューリの面倒頼んだよ」
「ちっ…この尼話逸らしやがった」
「何か言ったか」
「へーへー、頼まれましたよっと」
その言い方に苛立ったが、この場は公だ。ぐっと息を飲み、出ようとする言葉を潰す。そして、オルガの背を向け書棚にあるファイルに手を伸ばす。ぱらぱらとめくり栞の挟んでいるページを開け、シューリの書類を綴じる。そして再び書棚へ。くるりと回り、オルガの隣に戻る。
「分かったならさっさと研修ガイダンスに連れていきな」
「はいはい、おいシューリいくぞ」
「はい!フォーレ団長!」
オルガが背を向け第五師団室から出て行き、シューリも彼に続いていくが途中で引き返してきた。忘れ物でもしたのかと思っていたが、彼女は意外にも私の前で止まった。
「遅れましたが、カトリット団長これからお世話になります」
とだけ言い、ぺこりと礼をすると小走りでオルガの後を追っていった。
まぁ…、似ているのは経歴だけだと私も思うよ。あんなに可愛らしい笑顔なんて出来ませんよ。なんて、自己嫌悪に陥ろうかと思ったが、まるで見計らったかのように出動命令が下ったため、急ぎ足でこの部屋を出たのであった。