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死の在り方‐4


オルガは私の方を軽く見下すと、彼もまた跪いた。例え私より位が高くても、やはり国王様の手前では彼も私と同じ臣下だ。オルガは先ほど一変した表情で国王様の問いかけに答える。


「悪霊駆逐に向かった我が第一師団の全団員の帰還を報告に参りました」

「顔を上げろ。…そうか、ご苦労であった。急な出動になってしまいすまない」

「いえ、我ら第一師団は国王様の右腕として常日頃から鍛練に励んでる故、これぐらいのことは問題ありません」


横から見えるのはさっきまでのちゃらけたオルガではない、私たち第二〇三国が誇る部隊の中でも最も最強と謳われる黒隊第一師団団長の“オルガ=フォーレ”の顔だった。この第二〇三国で“オルガ=フォーレ”の名前を知らない天上人はいない。名門フォーレ家の第一嫡男で、この国が擁する成仏専門部隊、通称黒隊の最高責任者であり、また部隊の中でも最も国王様から信頼されている第一師団の団長でもある。おそらく、国王様を除けば彼がこの国で一番の死神だろう。


「そして」

「…なっ!?」


と、オルガは言葉を続ける。何を言い出すのか不思議に思っていたら、急に頭を掴まれ無理矢理頭を下げさせられた。一体こいつは何がしたいのか皆目検討もつかない。頭でも逝ってしまったのだろうか。そして力を入れているためか、地味に痛い。


「私やこいつを含めた全団長は我らが第二〇三国を支える存在になるべく、日々部隊の質の向上に精を尽くしているのです」


オルガが言い終わると同時に私の頭を掴んでいた手が退く。無理矢理頭を下げられたのは癪に触ったが、こいつの言い分は尤もだ。オルガの話に肯定するべく、再びふかぶかと頭を下げる。そう幼き頃私、黒隊第五師団団長アリネ=カトリットはカッシュ=グレーブ国王様に忠誠を誓っている。

オルガが顔を上げるのを横で確かめると、ゆっくりと上げていくにつれて私の瞳は優しい笑みを浮かべている国王様を映し出す。


「本当に相変わらず、だな。だが、それが私を安心させてくれる」


そして国王様は“ご苦労であった。二人とも下がれ”、と私たちに告げた。その言葉通り、私もオルガも跪いていた状態から腰を上げ、扉へ向かう。先行くオルガが扉に手を掛け、開こうとしたとき


「おおすまん、一つ言わねばならんことがあった」


と、再び国王様の声が部屋に響いた。その声に私たち二人とも振り返り、オルガは扉から手を離した。国王様はそのままで良いからそこで聞いてくれ、と続ける。


「オルガには一度話したが、明日予備部隊から昇格してきた新人たちが部隊に編入される。実質的な研修を行うのは責任者であるオルガだが、一応耳に入れておいてくれ」


* * *


国王様の部屋を出て二人で廊下を進む。新人死神研修か、もうそんな時期なのか。新人の研修は黒隊の責任者が行っている。だからもちろん今回の研修もこいつ担当なわけで。実際受けたことはないが、オルガの研修は厳しいものだと団員が言っていてのを聞いたことはある。


「おい」

「なに」


先ほど、国王様の部屋を退室するとき“あまり騒ぎを起こすな”と釘を打たれたばかりだから、物腰柔らかく喋るつもりだ。


「いいヤツ入ってくるといいな」


こいつが言う“いいヤツ”の意味を知る私は思わず苦笑い。


「ネコがいいんだっけ」

「強いて言うなら、な」

「タチは嫌なのか」

「嫌いってわけではない」


分かる人には今の会話で分かるだろう。まぁ…、いわゆる女に興味のない男ってやつだ。何度こいつに、お前が男だったらなぁと言われたことか。と、嫌な思い出を思い出したら出動が遅れた理由はこいつで、あとで仕返しすると決めていたことを思い出した。私は一旦止まり、二人の間が程よく空くとゆっくりと助走を付け、床を強く踏み込み


「覚悟っ!」


右足を突き出す。その先にはオルガ。決まった、と思った瞬間オルガはいきなり前屈。まさかの事態に不時着してしまった。


「甘いんだよ」


と、オルガは俗に言うドヤ顔で見下す。当然私はその表情にカチンとくるわけで、せっかく国王様が忠告したというのにその忠告も虚しく灰になってしまった。立ち上がった私はオルガと向き合い、そしてお互い同時に勢い良く踏み出した。


そう、こんな毎日。

死神として国王様に仕え、団長として団員を導き、オルガと喧嘩する。そんな毎日が私は好きなのだ。これが私にとっての在るべき毎日だと思っていた。




Episode.1-死の在り方




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