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死の在り方‐3

黒と赤を基調としたこの部屋は誰が見ても厳かであると思えるほど。また、そこに居座る者も部屋に負けぬ威厳を醸し出している。この男こそ、空の世界―天上界にある国の一つ、通称第二〇三国と呼ばれているこの国の国王、カッシュ=グレーブである。先ほどアリネが述べていた“あのお方”とはカッシュのことを指している。


「入室失礼いたします」


カッシュはアリネがこの部屋に入ってきたのを知ると、執筆していた筆の動きを止め、ゆっくりと色素の薄いその灰色の眼でアリネを見つめた。アリネは、その腰まであるマントを軽くなびかせ、しっかりと前を見据え歩みだす。カッシュが座る玉座の目の前までくると、深く跪いた。


「浄化、成仏は無事完遂出来たか?」

「はい、多少時間がかかってしまいましたが対象者の魂の浄化ならびに成仏は無事完了いたしました」


カッシュは“そうか”と告げ、剃ったばかりの顎鬚に触れる。カッシュは周りに控える自身の従者に退室を命ずる。慣れているのだろう、従者は突然の命令にも動じず、一礼を交わすと速やかに退室していった。カッシュは従者が出ていったのを確認すると、アリネに“顔を上げろ”、と言った。


* * *


「顔を上げろ」


国王様の言葉通り、顔を上げるとさっきまでの威厳にあふれた国王様はそこにはおらず、私の大好きな優しい表情をしている国王様がおられた。国王様は止めていた筆を再び動かしながら私に話しかける。


「また、やっておったのか」


筆の動きを止めずに国王様はおっしゃる。これには言い訳の余地がない。苦笑いを浮かべながら肯定すると、一瞬だけ筆を止め、おそらく呆れからきているものだと思われる長い長い溜め息をついた。このことにおける落ち度は私だけではない、といつもながら思っているがやはり、その姿を見るたび申し訳なくなる。


「よくも、まぁ…飽きないものだな」


国王様は呆れ顔を浮かべながらも笑みを零す。飽きる飽きないの問題じゃないんです、と弁解しようと口を開こうとするが、それは誰かが開く扉の音に掻き消されてしまった。


「失礼しますぜ」


扉を開く大きな軋んだ音のあとにその声は私たちのもとに届いた。その声の主はゆったりとした歩幅で玉座のもとにまで寄る。少し顔を上げるとそいつの銀色の髪が視界をちらつく。そして、その銀色の頭がこちらを向いた。


「へぇ、アリネもいたんだ」

「いて悪かったねオルガ」

「ごめん、跪いててあまりにも小さくなってるもんだから見えてなかった」

「あんたねぇ…いい加減に」

「…コホン、オルガ何用だ」


オルガと私は馬が合わないらしい。顔を合わせばほぼ確実に言い合いになる。さっき国王様が言ってた通り、“また”やってしまっている。このまま続けさせれば面倒なことになる、とでもお考えになった国王様が制止の声をかけたことにより、今回は火が飛び散ることはなかった。

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