死の在り方‐2
球体の後を追うその者。みるみるうちに球体とその者は地上を離れていく。どれほど離れたかは分からぬが、ようやく目的地であろうものが見えだした。それは数個の大小からなる浮き島。球体はその浮き島の一つに触れた刹那、音も無く一つ残らず消えてしまった。複数あったにも関わらず、球体は全て跡形もなく消滅した。少し遅れてその者が辿り着く。何も残っていない空間をその者は見据えると、携えていた鎌を再び空間に戻し、右腕を翳しその場から姿を消した。
* * *
かつん、かつんと静かなこの部屋では私のブーツのヒール音がよく響く。この部屋は他と比べて一層静寂に包まれているため、そのままの音が直接耳に届く。床から天上まである高さの円柱型の一つの水槽の前で止まり、ヒールの音も止む。その水槽の中で浮かぶ複数の球体は先ほどのと同じもの。浮かぶ球体の隣、二対の輪が現れる。その二対の輪は球体を包み込む。くるくると球体の回りを巡り、球体は強い光を発した。何度この過程をやっても、この光だけは苦手のままだ。発光してる時間は僅かだがその強さは半端なくて、どうしても目を瞑ってしまう。
そういえば、以前オルガとこの部屋にいたときも目を瞑ったらひどくからかわれたことが一度あったな。当時は悔しくて悔しくて目を瞑らずに開けていようと特訓したが、別に瞑っていても成仏の過程に支障が出るわけではないという至極当たり前のことに気付いて、今に至る。我ながら馬鹿な話だと思う。
そんなくだらない過去話を思い出していたら、水槽の中の球体は消えていた。それは成仏したという合図。成仏した球体、すなわち魂はこの後転生の準備をする。そして、長い星霜の後転生する。
そうやって人の魂は廻っているのだ、耳に胼胝が出来るほど何度も教えられた話だ。未熟だった頃の私には難しい話だったが、数年も経てば大半を理解していた。これが自然の摂理、理。死のあるべき姿。それを担う私たちは常にその役目を忘れてはいけない。それが、私たち“死神”なのだと。
魂を囲っていた輪が水に溶けて消えるのを確認すると、この部屋から退室する。
オルガとくだらない言い争いをしてたため出動が幾分か遅れてしまったが、無事男の魂は浄化され成仏し、輪廻の巡りに乗ることが出来た。少しでも出動が遅れていたら今頃男の魂は悪霊化し、一般の天上人たちを襲っていただろう。そうなったら始末書だけでは済まされないレベル。魂の悪霊化は死神にとってあってはならないタブー。そんなことを引き起こしてしまえば、私は事態を収拾した後腹を切るかもしれない。あのお方にとって不利益を齎すなど言語道断。私にとってそれは最大の禁忌。
とにもかくにも切腹は免れたのだ。長い溜め息を吐き、そのお方の部屋の扉に手を掛けた。