死の在り方
「じい様!お気を確かに…!」
「…もう思い残すことはない」
「じい様…っ、しっかりして下さい…!」
「孫と娘に看取られて逝けるなんて…、私は幸せ者だよ」
「…じい様」
「楽し…かった、…よ」
「じい様…?じい様?じい様!じい様あああああっ…」
とある住宅街のどこにでもある住宅である一人の男性が息を引き取った。享年七十三であった。最愛の娘と孫に看取られた故人はそれはそれは幸せそうに眠る。脈が消え、だんだんと失われていく人としての温もり。二人は故人を囲み咽び泣き続ける。その様子から故人がどれほど愛されていたか察するのは造作もない。
故人は生前から体が弱く、寝込ことはそう珍しいことではなかったと言う。だから、二人は今回もきっと数日で良くなる、そう思っていた。だが、現実は二人に牙を向いた。いつもなら発作を抑えてくれる薬が全く効かなかった。異常を感じた娘は医者に連絡。しかし、それはもう既に手遅れだった。医者は故人を診て一言、そして静かに首を振った。医者の話に寄れば発作が起こる度に各器官に悪性の病原菌が作られそして此度心臓に侵入した、とのこと。
そして、これは故人が望んだ死に方という。なぜ今の今まで気付けなかったのか、二人はただひたすら悲しみと後悔に打ちひしがれた。だが、どんなに後悔したところで時は止まりはしてくれない、二人に悲しみ、後悔を嘆く時間などありはしない。後悔する二人を嘲笑うかのように、故人の死は突然やってきた。
そんな二人を襲った悲劇が起こった住宅の外。一つの青白い球体が浮かぶ。この球体、先ほどの男性が亡くなると同時に突如出現した。それは町行く人々には見えてないのだろう、皆知らぬ顔で通り過ぎていく。その球体は依然として宙に浮いているが、ある変化が起きる。美しい光を発していた青白さの一点がくすみだす。最初は小さな小さな円、しかしそれほど時間を掛けていないにも関わらず円は次第に膨れあがっていく。そのくすみが球体の体表を覆うのは時間の問題と思われた。
しかしそれは叶わぬことだった。
空から現れたある者が来るや否や、球体のくすみは雪が溶けていくが如く消えていく。そして、球体から完全にくすみが消失したとき、その者はただの空間から自分の身長と同じ大きさの鎌を召喚した。その鎌の矛先はやはり例の球体。その者は鎌を掲げ、球体のやや下方、住宅と球体の間を一刀両断した。球体は地上と鎖にでも繋がれていたのだろうか、鎖が無くなったかのように上に浮上しだす。
その者は再び鎌を構え、もう一度球体にその鋭利な刃を交えた。瞬間、球体は多数の小さな泡のような球に弾ける。そして、その数多の球体は引っ張られるかのように上空へ舞い上がっていく。その者はその光景を見届けると、球体と同じく空高く舞い上がり、地上から姿を消し去った。
そんな不可思議なことが起きてるにも関わらず、町人はやはり誰一人気付かないまま、毎日を過ごしていた。