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向けられた刃‐6


瞳は大きく開ききって、赤みを帯びたその頬に一筋の透明な線が伝う。唇から洩れるのは荒い息遣い。子供であるが、子供であるからこそ苦しめられるこの抗えない現実。同じ、だ。あの頃の私もこんな姿をしていたのだろう。信じられる人なんて誰もいなくて、信じられるものは自分と自分が持つ力のみ。子供の世界なんて閉鎖的だ。知っていたとしてもその閉鎖的な空間に逃げ込んでしまう。他人と関われば多かれ少なかれ傷つく、閉鎖的な空間ではそんなことは一切起きない、自分しかいないのだから当然だ。でも。それでは前に一歩も進めはしない。人間もそうだが、私たちも一人では何もできはしない。今、第五師団の団長という肩書きを背負えているのは、私だけの力の功績ではない。


「悠々と生きている、か。貴方にはそう見えているかもしれない。でも、私からすれば貴方の方が悠々と生きているように思えますよ。遺産として残った知識を己のためだけに使っている姿、正直羨ましい」

「はっ、よく言いますよ。あんたらこそ己のためだけに動いているんじゃないか?国のためとか言いつつ本当は私利私欲のために使うんだろう!それこそ、己だけのためじゃないか!」

「では、ヤオン、貴方の思う己以外のために使う力の使い方とはなんですか」


大きく開いていた口が徐々に閉じていく。子供相手に卑怯すぎる問いかけだとは思うが、これしかない。確かに、ヤオンの言う通り『国のため』は『己のため』とも捉えることは出来る。この国は王政だ。国のため、それは言い換えれば王のため。王自身の己のため。そう考えてしまったのだろう。


「国のため、そうですよね」


苦虫を噛みつぶしたような、その表情。図星であるのは明らか。


「……うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいっ!」


その時の表情は、子供なんかじゃない、独りぼっちで生きてきた、孤独に耐えてきた幼い大人の表情。そして、例の液体の入った瓶を乱暴に手に取り、大きく振り上げる。全ての動作がスローモーションに私の目に映る。私とヤオンの間の距離はそこまで開いていない。この距離なら、力の弱い子供でも十分届く距離だ。振り上げた腕は綺麗な放物線を描き、掌から瓶が放たれる―はずだった。力の弱い子供でも十分届く距離、それは即ち大人にとっては短い距離。振り上げた腕が頂点に達すると同時に、一歩を踏み込む。一気に縮む二人の間。左手を右斜め上に振り払い、ヤオンの掌から瓶を振り落す。そして、間髪入れずに腰の携えていた短刀を右手に持ち、その刃を首筋に宛がう。鈍く光るその銀色の刃に、映る二人の姿。


「……やっぱ、女性といえども軍人なんですね」

「あんまり舐めた真似はしないでほしいですね、乱暴にするのは得意ではないので」


宛がっていた刃を首筋から放す。何も残っていない首筋に手を当て、少し距離を取られる。


「貴方の気持ち、わかりますよ。国のため、なんて言葉信じられないし信じたくもないその気持ち。でも、今の行いが良いこととは思えないその気持ちも。じゃあ、どうするか。自分の力で国を動かせばいいじゃないですか」

「は……?」

「私も過去に、ある人物からその力を国のために使おうと誘われたことがあるの。もちろん、最初は断ったよ。貴方と同じ理由でね。でも、次の日来たその人物はこういった、『お互いに利用すればいい。今は私が君を利用しているように見えるかもしれない。でもいつかその関係を君が壊せばいい。もちろん、壊さなくてもいい。私は君を私欲で使う気は全くない』と」

「そんな言葉で、僕が動くとも思っているのですか。第一、そんな話嘘に決まっている。女性で、しかも団長クラスの階級の貴女にそんな過去があるわけがない」

「残念だが、それが事実なんだよな」


この場にいるのは、私とヤオンの二人のみだったはず。それなのに、今この場に響いた声は二人以外の者の声。しかし、私はこの声の主をよく知っている。先ほど述べた、私が第五師団の団長の肩書きを背負えるきっかけをくれた者の、一人。認めたくはないが、この男がいなかったら正直今の私がいるかも怪しいぐらいなのは事実だ。


「……うちの第五師団まで指揮取らなきゃ駄目だというのに、暇なんですね。流石、黒隊最高責任者様は違いますね」

「いやー、それが団長様の普段の指揮が立派みたいだから俺が指揮する間もなくてね。おかげで手持ち沙汰になってしまって。流石、底辺から上り詰めた第五師団の団長様は一味違うな」


私にとってはただの嫌味、だがヤオンは『底辺から上り詰めた』に分かりやすいほど反応をした。


「底辺……?どういうことだよ、貴女は最初から」

「最初から出世コースまっしぐらのお偉いさん。それが違うんだよな。こいつ―アリネはお前と同じごく一般の天上人だった。そして、お前と同じように国の軍人に声をかけられた。あ、一応聞いとくけど俺のこと知っているよな」


黒隊最高責任者、国王様の右腕オルガ=フォーレ。ヤオンは小さくそう呟いた。


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