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向けられた刃

あの追放から幾夜が過ぎた。

最初こそ、団員たちがシューリの追放を偲んでいるせいなのか、多少ミスが見られたが今ではほぼ元通りに戻っている。他の団長らから嫌みでも言われるのかと思って、少し構えていたがそんなことは一切起こらなかった。流石にもう私にいちいち文句を言うような子供ではないなどと思っていたが、そんな喜ばしいことではなかった。城内を歩いていた途中、耳に挟んだのは追放者が出てしまった第五師団の団長の批難の言葉。ああ、やっぱりそう簡単には消えないのだな、と足が止まってしまう。だがすぐにその批難の言葉は途切れてしまった。不思議に思って、角から少し覗いてみたら予想外の人物がそこにいた。しかも目が合ってしまった。慌てて角から引っ込めるが、足は止まったままで動かない。そして、その人物の足音は私の横で止まった。後ろで複数の足音が聞こえるから批難していた連中は去ったのだと思われる。


隣の人物は私の横に止まったまま。別にやましいことなんて何一つありはしないのに顔を上げられない。この静かすぎる空気に私は耐えられなくて、踵を返そうとしたがその瞬間声をかけられた。


「おい」


聞こえてないわけではない、十分聞こえている。喋らないのはなんて返事すればいいのか分からないから。このまま去ってしまえばいいものを、私は一歩も動けない。動きもせず、喋りもしない私に痺れを切らしたその男、オルガはぶっきらぼうに言う。


「無理するな」


隣に来たオルカは決して優しいとは言えない手つきで私の髪を撫でる。


「…女は嫌いじゃなかったっけ」

「お前は女でも男でもないからいいんだよ」

「なにそれ、滅茶苦茶じゃん」


思わずくすりと笑ってしまい、彼の手が止まる。そのまま彼を見上げると、再び目が合ってしまった。先ほどとは違い、お互い一秒も反らさない。息の音が聞こえてしまうぐらいの静寂と混じる視線。その空気は不思議なことに心地悪いものではなかった。いつもなら何か言い訳を付けて逃げてるはずなのに、今日は変だ。やはり知らず知らずのうちにストレスでも溜まってしまっているのだろうか。いや、そうに決まってる。そうじゃなきゃ、そもそもこんなこと起こるはずがない。私がそう必死に思い込んでいるなんて知らないで、彼は手をゆっくりと髪から降下させていき、やがて頬に触れられるぐらいの位置まで下がっていた。


「他人の目なんか気にしてたら伸びるもんも伸びねーよ。第一、あの件に関してはアリネには全く非がないどころか被害者だろ。それにどちらかと言えば、非があるのはお前の忠告を却下した俺の方だ」


ずるい。非があるとかないとかどうでもいい。なんでこんなに優しいのさ。ずるい、ずるいよ、オルカ。本当はなんでシューリを庇護するような行動を取ったのか問い詰めたいのに、本当は今すぐにでもこの手を振り払いたいのに、本当は泣きたくなんかないのに、全部全部オルガがずるいせいだ。目じりに溜まる涙を拭き、きっと睨み付ける。


「そんなこと知ってるよ」

「へぇ」

「だいたい、何年この立場にいると思っているんだ。全部、全部知っているさ。実はオルガがロリコンだということも」


頬に触れていた彼の手がぴくり、と小さく跳ねた。オルガは確か二十二、そしてシューリは十六だ。


「ロリコンなら、仕方なっ…?」


頭の上でぴくり、と小さく跳ねた手はいつの間にか私の目の前に来ていて、気づいた頃には顎に添えられていた。そしてそのまま軽く持ち上げられ互いの視線が交わる。深い青の眼がずしりと突き刺さる。


「誰が、ロリコンだってぇ…?」


まさに一目瞭然という言葉がぴったりな程、彼は怒りを浮かべている。そしてぐいっと距離を縮めるから一気に視界がオルガで埋まる。その近さはかろうじて視界の端に壁が入るレベル。とにかく、近いのだ。だが、怯む気なんてさらさらない。


「二十二が十六を贔屓するなんてロリコンだろ、どう見ても」

「てめ…」

「大体さ、黒隊最高責任者であろう者がなんて失態犯してるのよ」


流石にこれには返す言葉がないようだ。当然だろ、いくら任務後の夜に昼の分を働いていたとはいえこいつはシューリを贔屓したのは事実だ。こいつの個人指導を受けたい他の新人団員は多くいるというのに、シューリだけを贔屓するのはどう考えても最高責任者のするべき行動ではない。ロリコンは勢いで言ってしまったことだが、私の言い分は正しいはずだ。そしてようやく体の硬直状態が解かれ、間を空ける。


「嫉妬してんの?」

「私にしてほしいの?」

「そんな物好きいるわけがないだろ」


まさに売り言葉に買い言葉。いつもと同じような会話だけれど、微妙な距離感。嫉妬してるか否か、その答えは多分“嫉妬してる”嫉妬と言っても恋愛ではない、仕事性だ。私とオルガ、どちらに着いていくかと問われれば半数以上がオルガと答えるだろう。シューリもそのうちの一人だと言い聞かせていたが、どうやら無理だったようだ。


「…アリネ」


名前を呼ばれ、微妙な距離感で伏していた目を上げると再び青の眼と交わる。目を見るだけで分かる、今から話すことは真面目なことなのだと。足を一歩ずらし、距離感を整える。そして小さく息を飲み込み、彼の言葉の続きを待った。


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