好きではないあなたと付き合う理由
好きや嫌いだけじゃないんだぜ
山は紅葉の死化粧。
あなたは、これから死に逝く為に赤く熟した葉を見て、「キレイ!」と形容した。
僕は景色を損ねない為にそっけなく返事をしたが、心の底では強く同意していました。
あの葉達は役目を終えたから、この世から消えていく。
老兵は死なず、ただ消え去るのみ。
さよならだけが、美しい。
少し、この景色を見ながら散歩しようか。
僕は、別にあなたの事を好いてはいなかった。
それでも、運命は、感情と別次元で作用しているから、あなたと僕はお付き合いをする事になりました。
申し出たのは僕からです。これっぽっちも好きではなかったが。
しかし、時間を共に過ごしていく内に、明るく元気なあなたに少し気持ちが移ろいでいきました。この景色のように。
死臭漂う僕も、あなたの影に隠れてしまえば、きっと臭わない。
これが運命というモノ。
僕の気持ちとは裏腹に、僕達は違和感なく、風景に恋人として溶け込んでいます。
彼女と話す時間”は”好きでした。
無口な僕に対して、あなたは職場での出来事や、自らの友人の事を嬉々として話しては一人喜んでいる。
僕はその内容を3歩歩いたら忘れたが、それでもあなたに話しかけてもらう事を楽しんでいました。
なんだか気分がよくなってきたので、僕からも話題を提供する事にしました。
あなたが話すのをさえぎって、「美しいって何だと思う?」とあなたに聞いた。
すると「イケメン!」。速攻でした。
あなたがV6の岡田くんファンな事を今、思い出しました。
しかし僕はね、芸能界にイケメン・美女として君臨するような、ケチのつけどころが無い顔は好きじゃない。
ああいう整った顔立ちっていうのは確かに綺麗だ。美しい。完璧だろう。
しかし、欠けた魅力っていうものが無いじゃないか。
どこか崩れていた方がよりそそらないか、だって、欠けた魅力っていうのは独占欲を満たしてくれる。自分”だけ”のモノような気がしないか。
その欠けた魅力こそ、真の・・・
「 デ ュ ク シ !!!!!」
( ゜д゜)・・・。
クシャミでした。
「あ”~、ねぇ、少し寒いよぅ」
僕はこの話題を閉める事にした。
無言で5分程歩きました。
気を取り直して、もう一つ話題を提供する事にしました。
いつか恋人と語り合わなければいけない、愛について。
「ねえ、愛って何だと思う?」と尋ねました。
お互いの価値観は同じモノか、そうでなくとも近いモノであるか確認する大事な話です。
答えがあなたと近いといいな、同じだとなおいいなと期待を膨らましていた。
あなたのことはこれっぽっちも好きではなかったが。
しかし、とても大事な話題にも臆せず、やはり速攻で「うーん、信じる事!」と応じてくれました。
その返事のスピードだけは満点でした。
あなたらしい稚拙でストレートな答えだなぁ・・・。
しかし、僕はね、愛というモノは”静寂”だと考えているんだよ。
言葉も必要とせず、ケンカもせず、理由も必要ない、それでも共にいる。
親と赤子の間に言葉が不要な様に、言うまでもなく僕の意思を汲んで欲しい。
あなたが間違っていようとも、あなたがそれでいいなら、僕は意見せずあなたの意思を尊重しよう。
静寂、すなわち愛を持って。
僕はあなたに自分の考えている愛を説明しました。
無口なはずの僕の口が、この時ばかりは違った。
だって、とても大事な話なんだからね。あなたにはしっかりと理解してもらわなくちゃ。
僕は必死でした。
あなたを好きになろうとしていたのかもしれません。
ここであなたがなるほど!その通りだ!と改心してくれるならば、僕はあなたを好きになれそうです。
人前で手を繋ぐ事は恥晒しだと考えている僕ですが、あなたが改心してくれるならば指を交差させ手を繋ぎ、スキップくらいはしてやるよ。
あなたはこう答えました。
「難しくて何言っているわかんなーい!」
もうすぐあの山の葉も散り、冬が訪れるでしょう。
僕は寒いのが苦手だが、冬が来るのはしょうがない事です。
誰も抗えない。運命ですから。
冬までもう少し時間があります。
もう少しの間、暖まってていいかな。
さよならだけが、美しい。
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