誰の所為でもなく4
「いい加減にしなさい」
私は隣にいる男についにキレた。
付き合うこと半月。
この男は金銭感覚がおかしい。
おかしくなるのは私に限ってのことだと言い張ってるけど。
目の前には某高級ブランドのネックレスと指輪。総額うん十万円。
ウィンドウショッピングのつもりで、いいなー綺麗ねーって言っただけなのに彼は本気で買おうとしていた。
「だって美沙子さんに似合いそうなんだもん」
ギロリと睨むと慌てて口を噤んだ。
「だからって貢ぐようなことしないで。本気で欲しいなら自分で買うわよ!」
「俺が買ってあげたいだけなのに」黙れというかわりに両方の頬を思いっきりつねる。
いひゃい痛いとうるさいけどいい加減やめてほしい。
庶民の私には心臓がバクバクして刺激が強すぎる。
初デートの日なんてドラマでもみかけないくらいのピンクの薔薇をメインにしたやけにでかくて重い花束を渡してきた。
それからケーキが食べたいといえば棚の端から端まで大量に。
携帯が壊れたといえばお揃いの最新機種を。
少し思い出すだけでも恐ろしい。
友人の佐伯瑞穂に話すと爆笑されるけど、笑い事の域を越えてるから。
「み、美沙子さん‥怒ってる?」
身長180センチ超えた彼なのに落ちこむ姿が犬にしかみえない。
しっぽがきゅうんって縮こまってる。
「ごめん。でも俺、美沙子さんが喜ぶのがみたくて」
もう充分喜んでる。
一緒にこうしているだけで満たされていることがどうして伝わらないんだろう。
「私が一番欲しかったもの何だかわかる?」
彼にはわかるだろうか。
私がずっと手に入れたくて仕方なかったものが。
「じゃあ佐々木くんが一番ほしいものって何?買ってあげるから教えて」
彼は真剣な表情で考えていたけどしばらくして目を見開いた。
「美沙子さんがほしかった。他にいらない」
いつも彼の言葉は直球で。
そのたびに泣きたくなるのをあなたは知っているんだろうか。
不安なときに人の温かさを感じると安心するから。
ただ感じたくてそっと佐々木を抱き寄せる。
「ずっとそばにいてくれる人がほしかったの」
いつか見つけられるだろうか。
もしかしたら誰かみつけてくれないかなって。
他力本願して気付いたら30才こえちゃったけど。
「私のこと好きになってくれてありがとう。私も佐々木くんのこと好きだよ」
そのときの佐々木の顔ったらなかった。
一瞬泣きそうになって、真っ赤になってった。
やっぱりこの人ってなんていうか‥可愛い。
最初は自分と全く違うタイプの人だから苦手だったのに。
印象なんて当てにならないものなんだ。
「覚えてる?最初の約束」
ふと佐々木が尋ねてきた。
赤くなったまんまの耳が気になるけど表情は真摯で。
「俺のこと好きになるまでは手はださないってやつ。さ、行こうか」
手をぐいぐいひっぱってタクシーの中にポイッと連れ込まれた。
「プリンスホテルまで」
全然わかってない。
なんだってこうも感覚がずれてるのかな。
そして。
タクシーの中で行き先をあーでもないこーでもないと揉めて運転手に放り出された私たちだった。




