不可解縛り
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ふ~、どうやら梅雨が明けたみたいだが、この暑さには毎度毎度しんどい思いをするぜえ。
夏には暑さにあえぎ、冬には寒さに震える。春も秋もなし、ていうのが将来の日本の風情になっていくのかねえ。昔ながらの季節の風物詩が通じない世の中が、できあがっていくのだろうか。
な~んか嫌な感じだが、それにはもっと時間がかかるだろうし、俺たちは残らずぽっくり逝っているだろうから、心配するだけ無駄なんだろうかな。ガハハ。
しかし、こうも我々の動きを制限しようとしている気候をはじめとしたもろもろの現象。そいつに意味がある、とする考え方は昔からたくさんある。異常な現象は、天の神様が何かしらを伝えようとしているために起こる……みたいな。
私はそのようなことが実際にあるかどうかは、判断しづらい。けれども私の友達は、ちょっと不可解な目に遭うことがあったと、最近に話してくれてね。
耳に入れてみないかい?
当時の友達は、しばしば「縛り」に出くわしていたらしい。
縛りといっても、自分が自分に課すハンデや制限のたぐいじゃない。外側から、何かに縛られる感触があったのだとか。
顕著なのが、電車に乗っているときだ。いい具合に座席が空いたのを見たら、すかさず座りにいく……誰にだって経験のあることじゃないか?
友達もご多分に漏れずにその一人なんだが、ある時からしばしば縛りに邪魔される。シンプルに身体を動かすことができなくなってしまうんだ。
空席を狙うのはひとりじゃないから、当然おくれをとる。席をとられる。しばらくしてから自由が戻る。
好きでやっているわけじゃないから、たいした屈辱だ。はじめのうちは電車内のみかと思っていたけれど、次第によそでも似たような目に遭うことが増え、友達はしばしばそのストレスを溜めていったのだとか。
そうしてある時。
いつもは使わない路線で遠出する機会があって、その帰りにまたも友達は縛りに襲われた。
今回は争うものもない車内だ。比較的ゆとりがあり、長座席の端っこという絶好のポジションが手近にあった。優先席でもない。
そこへ身体を動かそうとしたとたん、ぴしっと身体の動きが止まった。
何度あっても慣れないと、友達は語る。羽交い絞めにされるというより、無数の硬い紐が背後から身体に絡みついて、引っ張り上げられるような感触。痛みさえ覚える、強いものだったとか。
そうして苦しんでいる間に、競争相手に先を行かれてしまう。でも、今回はそのタイムリミットがない。十数秒もすれば、スキだらけの時間も終わって身体のいうことがきくようになる。
これで今回はようやく席にありつける。
そう、ようようと腰を下ろして、一息ついた友達。しばらくは、その座席の感覚を楽しんでいたものの、やがてあるものに気づいてしまう。
視線だ。
まばらとはいえ、乗客の目線がいつの間にか自分に集中しているのを、友達は察したらしい。
このご時世、スマホをはじめとして自分の用事こそが最優先で、誰かに気を配るやつなどほとんどいないようなもの。事実、自分が腰を下ろすまでの間、みんなそれぞれの事情に集中していたはずだ。
それがなぜ、3ケタにも及ぶ視線を席に座った自分が向けられなくてはならない。
――まさか、吐しゃ物の痕とか……!?
あり得る話だ。
前に席へ座ったのが酔っ払いで、ここは「リバース」の現場なのかもしれない。掃除こそされているけれども。
それを知っている皆は、あえてその席を避けていたというのに無知蒙昧な自分が腰を下ろすものだから、「おいおい、マジかよあいつ」とこうも四方八方から視線責めしているのだろうか。
――それでも、普通はちょっと見たら、以降はあえて顔を向けないようにするもんじゃね? なんでこうも恥さらしな目に……!
友達はその雰囲気に耐えられず、次の駅でいったん降りてしまったそうだ。
次の電車に乗ったのだけど、今度もまた幾人かにじろじろと見られることに。
今回は友達にも原因が分かった。自分の履いているズボンの尻の部分に大穴が開いていたからだ。
だが、最初の電車に乗っている間はなんともなく、破けた気配は感じなかった。
ひょっとしたら、座ったあの席で「なにか」に「なにか」をされたのか?
みんなはそれを見ていたのか?
自分の縛りはそれを避けるためだったのか? 今までも?
謎は残ってしまったようだ。




