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第一幕:キッチンカーの男
中世暦・王国歴三二一年。
その日、王都の外れに奇妙な“馬車”が現れた。
馬でも牛でもない。
黒鉄の箱を積んだ、見たこともない移動商店。
「……なんだあれは」
門兵が槍を構えるより早く、箱の側面が開いた。
同時に――
ジュウウウウウウ……
肉が焼ける音と、信じられないほど強い香ばしい匂いが、城壁の隙間を突き抜けた。
「う、うまそう……いや待て、これは罠か?」
だがもう遅かった。
香りは“兵器”だった。
馬車から降りてきたのは、異国風の男だった。
長い布を頭に巻き、鉄のヘラを持っている。
「どうも。通りすがりの“焼き商人”です」
「焼き……商人?」
「ええ。焼いて売るんです。全部」
彼は黒鉄の箱を叩いた。
すると再び――ジュウウウウウ。
中から焼けているのは、肉。
ただの肉ではない。
表面には謎の赤黒いペーストが塗られ、焦げる寸前で輝いている。
「それは何だ!」
「味噌です」
「みそ?」
「発酵した大豆の旨味ですね」
兵士たちは理解できなかった。
だが、唾は理解していた。




