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ツバサ  作者: 皐月メイ
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洗礼の日

教会の鐘が鳴る。夕方を告げる鐘。村の高台にあるその白亜の建物は夕陽を浴びて赤くそまっていた。この教会は国教であるアトレアの翼の巡礼拠点で、小さな村にしては、につかわしくない程に立派で大きい。下手をすると村よりも大きいかもしれない程を規模を誇っていた。逆に言えば、この小さな村レーテはレーテ教会から発展した村なのだ。


ひとりの少女がその教会を目指して走っている。緑色の瞳、顎のラインに切り揃えられた髪、若草色のエプロンドレスに編みあげのブーツの少女はルキ。村長の娘である。


この国では16歳になると教会に行き、ある検査を受ける。ルキは今日、その検査を受ける様に言われていたのだ。彼女は乱れた息を整える様に門の前で深呼吸をする。何を調べる検査なのか知る人はほとんどいない。ただの通過儀礼のようなものだとみんな思っていた。もちろん彼女もだ。この検査に引っかかる人を見た事なんてなかったから。


いつも見慣れた教会がルキにはよそよそしく見えた。毎週、お祈りに来ていたはずなのに。人通りの少ない門を通り、聖堂の中に入ると正面にアトレアの像が見えた。大きな翼を持つ聖女はアトレアの翼の主であり、人を汚れた地界から天界に導いた救世主である。ルキはアトレア像の前まで行き祈りを捧げる。


「ルキさん、そういえば今日はアトレアの洗礼の日でしたね」


奥にいた司教が出てきてルキにそう話しかける。父と同じ赤い髪のその男は柔和な笑顔を見せてルキを迎え入れた。ルキははいと小さく頷き、司教の前に行く。


「緊張する事もありませんよ。みなさんが一度は受けるものですから。……さあ、こちらに」


そう言いながら司教は微笑み、祭壇の横にある入口に誘った。ルキはまた小さく頷き、司教の後をついていく。入口を入ると薄暗い。足音が響く廊下を歩きながら、ルキは段々と不安な気持ちになってきた。


少し歩くと司教は小さな扉を開けた。ルキも早足で扉をくぐると眩しい光に一瞬目がくらみそうになる。彼女は慌てて周りを見渡した。正面の窓の西日がさすその部屋には家具などは無く、ただ一脚の椅子だけが置かれていた。白い室内は夕陽の赤に染まり、壁紙に施された薔薇や羽根のモチーフを色付かせている。


「さぁ、お座りなさい」


司教はその椅子に座るようルキに促しながら、黒いカーテンを引き部屋を暗くした。彼女は異様な雰囲気に飲まれながらも、急いで椅子に腰かけた。赤いビロードが張られた安楽椅子は心地よい。ルキはゆったりと足を伸ばしかけてから、我に返ってきちんと座り直した。司教はその様子を見て微笑み

「緊張しなくても大丈夫ですよ。すぐに終りますから」


そう言って出ようとしたが、最後に振り返った。


「あ、そうだ。ルキさん、お誕生日おめでとう」


「あ……ありがとうございます」


ルキが最後まで言い終える前に重そうな木の扉は閉まってしまった。重苦しい音の余韻が残っているような静寂が寂しく、不安にさせる。司教がいなくなった部屋でルキはひとり、居心地悪そうに椅子に座っていた。髪を直したり、辺りを見回したりしていると、再び扉が開いた。

入って来たのはクリーム色のサリーを付けた女のようだった。鋭い眼光にルキは思わず身を固くする。女は暫く様子を伺う様にルキを見つめたかと思うと、低い声で呪文のような歌を歌い始めた。不気味な抑揚のついたそれを聞いたルキは突然千切れるような背中の痛みを感じた。痛みで思わず身体を崩した時、女の指先が額に触れる。その瞬間、部屋全体を光が覆って、ルキは倒れた。


「……これは……翼人(つばさびと)の証」


薄れていく意識の中で、そう呟く女の声が響いた。


――何が起きたの?翼人ってなに?



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