はじまりの物語
夢を見ていた。
長い長い……夢を。
まだ子供だった頃の夢。
父さんと少女が笑っている夢。
すごく懐かしくて、暖かい気持ちになる夢。
納屋の前で柵に腰かけた少女が俺を見て手を振った。
片手にシロツメクサの冠を持って。
あれは……誰だっけ?
幼なじみの……。
彼女が俺の名前を呼んだ。
「…………グレン」
<<はじまり>>
聖都アスガルドに伝わる伝承にこのような記述がある。
まだ、地上に文明が栄えていた頃、何百年にも渡る内乱によって土壌は汚染され、生命を脅かすものとなってしまった。作物は実らず、水は汚染され、資源は底をついた。更に天候の不順も重なり、多くの人々は死滅していったのだ。
その惨状を憂いていた時の王、ライネルは王位を弟に譲り旅に出たという。
数人の共と出た旅の目的は古から王家に伝わっていた楽園である約束の地を探す事であった。各地を探し回って数年、北の砦を訪れたライネルはとうとう無理がたたって床に伏してしまった。高熱が続き、次第にやつれていく身体。最早、身体を起こす事すら、難儀な程に衰弱していた。
それは、吹雪の夜の事だった。何かに導かれるように家来達を休ませ、彼はひとりフラフラと寝室のテラスに出ていった。外に出てすぐに彼は異変に気付いた。
寒くない……。
彼は自分がおかしくなってしまったのかと思ったという。極寒の地の果てであるはずなのにと。彼は思わず頬をつねってみた。
「痛い」
その時空から笑い声が聞こえた。鈴のような小さく可愛らしい声。彼は声のする方を見て言葉を失った。
無理もない。ブロンドのウェーブがかった髪の少女が光に包まれて降りてきたのだから。更に少女の背中には……大きな翼が生えていたのだから。
「俺は……死ぬのか?」
思わずライネルは少女に尋ねた。少女は首を振って微笑んだ。
「私は貴方達を助けに来たのです」
「助ける?」
ライネルは眉をしかめながら訊いた。少女は彼の様子を気にしない様ににっこりと笑いながら、空を指差しながら言った。
「約束の地アスガルドに」