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もんだい編

 ある高校の図書室の談話スペース。

 高校2年生の僕、深水静海しみずしずみはイスに座って本を読んでいる。

 対面には幼馴染の鹿屋夏乃かのやかのが座っていて本を読んでいる。


 夏乃は読んでいた本『遊びと人間』を閉じて丸テーブルの上に置く。

「ねえ静海、ちょっといい」

 声をかけられた僕は本を開いたまま答える。

「僕は今『半日村』を読んでいる。みんなで力を合わせている熱い場面だ。読み終わるまで待ってくれ、夏乃」

「なんでいつも絵本読んでるの?」

「……」

 僕は無視する。

「ねえなんで?」

 僕は絵本を閉じる。

「……なんでだと思う?」

「漢字読めない馬鹿なんでしょ」

「そんなわけないだろ」

「じゃあなんで?」

「僕は小学1年生のいとこと一緒に住んでいる。彼は友達をつくらない。だから友達の大切さを知ってもらうために僕は彼に絵本を読み聞かせている」

「へーえらいじゃん、どんな子なの?」

「苗字は僕と同じで、深水激竜しみずげきりゅうと言う」

「げきりゅう?」

「激しい竜と書く。激竜とは英語でデンジャラスドラゴン、DDディーディーだぜと自称している。あと彼はカッコいいものが大好きで、竜の指輪をつけて竜のネックレスを首にかけている」

「小学1年生で中2病なの!?」

「それだけなら可愛いものだがな。親の言うことは聞かないし、わがままばかりで困る」

「気になるからその子の話してよ」

「この前なんて算数にキレてたぞ、すごい視点からキレてた。彼を納得させるのが大変だった」

「静海、あなた高校生でしょ。数学じゃなくて算数にキレるなんてやめなさいよ恥ずかしい」

「僕じゃねえよ、激竜君がキレてたんだよ」

「算数の何にキレるの?」

「じゃあその時の話するか」


ーーーーーーーーーーーーーー

 1週間前、深水家。

「何だこの問題! 意味わからねえぞ」

 居間の机で勉強している小学1年生の激竜君がわめていている。

「おい、サイレントシー、来てくれ!」

 彼は叫ぶが僕はサイレントシーではないので無視する。

「サイレントシー! 静かな海でサイレントシー、おい無視するな! 静海君来てくれ」

 名前を呼ばれたので僕はしぶしぶ向かう。

「静海君! この問題がおかしんだよ」

 激竜君が宿題のプリントを僕に渡してきたので読んでみる。

 そこにはイラストが描かれている。

 アイスクリーム屋さんがあり、子どもたちが並んでいる。

 問題文にはこう書かれている。


『アイスクリームやさんに子どもたちがならんでいます。

 ヨシコさんのまえには5人います。

 ヨシコさんのうしろには5人います。

 ならんでいる子どもたちはぜんいんでなん人でしょう?』


 僕は考える。

 これって1年生の算数の問題にしては難しくないか?

 だってこれひっかけ問題だろ。

 ヨシコさんの前と後ろに5人だから、足して10人と答えると間違いだ。

 ヨシコさん自身も数に含めないといけないから答は11人になる。

「この問題のどこがおかしいんだ? 激竜君」

「ヨシコさんがおかしい!」

「ん? どこがおかしい?」

「ヨシコさんは自分の後ろの人数を数えている!」

「そうだな」

「なんでヨシコさんは自分の後ろの人の数を数えるんだ! 意味ねえだろ!」

 意味がない?

「……あっ、確かに!」

 よくそんなことに気づくものだ、と僕は感心した。

 店の行列に並んでいるときに自分より前の人数を数えることはあるが、後ろの人数を数えたことなんて無い。

 前の人数を知れば待ち時間の推測はできるが、後ろの人数を数えることには意味がない。

 激竜君の言っていることは正しいのだ。

 そんな彼の疑問に対して、僕が細かいことは気にするなと拒否することは簡単だ。

 だが本気で怒っている彼を納得させようとする努力はすべきかもしれない。

 納得しなくてもいいが、子どもの真剣な問いに向き合って努力したことが大切なのだ。

 僕はプリントを彼に返す。

「激竜君、僕は変なことをしたヨシコさんの気持ちを考えてみようと思う」

「静海君、できるの?」

「僕は男だ、だから女のヨシコさんの気持ちを理解するのは難しい。だが僕には性格の悪い女友達がいてよく会話している。だからわかるかもしれない。少し時間をもらうぞ」


 そして、僕は考える。

 まず人間は基本的には損得勘定で行動する。

 ヨシコさんの行動には何らかの得があるのだ。

 アイスクリーム屋。

 自分の後ろの人数を数える意味。

 それは金にはならない。

 感情的に得?

 喜びを感じる?

 ……。

 そうか、わかったぞ。

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