助手紹介依頼:(自称)主人公現る
ここは麻世井探偵事務所。
いつもは私一人しかいないものの、
今日は二人分、いつもより人数が多い。
まず、1人目は私の目の前の依頼人。
2人目は、たまに遊びに来る妹の真衣香。
「単刀直入に言おう。今回だけで良いから僕の助手として事件捜査の補助をして欲しい」
依頼人が唐突にそう言い出す。
「依頼料は?」
私だって彼女の仕事を受けるような人間。依頼料はちゃんと確認して、きっちり取り立てるようにしている。
「警察による依頼金が40万だから、その1割で4万なんてどうだ」
彼女の依頼ならともかく、普通の探偵としての依頼額なら普通に論外。追い出そうと思い、口を開けようとしたら真衣香が先に声をあげた。
「論外です。あなたは麻世井探偵の能力をよく理解できていないようですね?」
そんなに有能じゃない。むしろ真衣香の方が活躍している。
この間なんか、例の県警爆破事件を解決したらしい。
私は失敗してばかり。
「そちらこそ僕が誰なのかよく理解していないんじゃないか?」
知らない。誰?
「誰なんですか。あなた?」
「僕の名前は松川莉音。パルソノックの次期社長にして、天才探偵として世をかける…そうだな、この日本の主人公だ。」
こいつは一体何を言っているのだろう。
確かパルソノックといえば旧名が松川電器産業で社長は代々松川家が継いでいると聞いた。…この莉音とやらはそこの子なのだろうか?
しかし、松川家といえば初代の松川幸助がP研究所や松川政経教育塾(現首相はここ出身らしい)を作っていて、そんな「経営の神様」と呼ばれる者の血を継ぐエリート一族だ。
そんなところから、この主人公を自称する馬鹿が生まれたなんて…なんというか、日本はもう終わりかもしれない。
「…もういいから…帰れ」
少し怒気を含んだ声でそう言うのがせいぜいだった。
これで5件目だ。
皆この僕が気に入らないらしい。
嫉妬か何かだろうか。
まぁいいや。パパッと捜査依頼を片付けて次を当たろう
助手を持ってシャーロック・ホームズのような本を出せるよう頑張るぞ〜
「で…私に来たと?」
私の目の前にいるのは1人の高級そうなスーツに身を包んだ男。
松川亮介、パルソノック現社長にして今回の依頼人だ。
「そうなんだ…どうかあの子に合った助手を探して欲しい…」
どうでも良い話だけれど、私の幼い頃から彼の一族はこの会社に度々依頼をしてきている古い仲だ。
「依頼料は?」
「い、幾らでも」
過去の一件について知っているからか、随分と及び腰だ。
「では○○○ほど。あとうちは助手探しなんて基本やらないので責任は負いません。構いませんね」
うちの子達のうち誰かを手放さなければいけないなんて、考えるだけで虫唾が走る。そう考えているとついついドスの効いた声でそう言い放ってしまった。
依頼人は怯えきった様子だ。
私のような小娘相手にそんな怯えて…大人としての威厳はないのだろうか
「こうなることは私も大変不愉快で残念なのですが、あなたに最後の依頼を用意しました」
「えっ………そんな…?」
あまりに唐突な私の言葉に通話先の子は言葉が出ないようだ。
「我が社の元を離れて、探偵の助手になるようにという依頼です」
「え…えっ…でも……」
通話先の子は明らかに涙声。
「…ごめんなさい」
「…最後に貴女に会いたいです」
私も初めからそのつもりだったから、前持って家の前に待機していた。
「今、行きます」
電話を切る
ノックを4回。
察していたのかすぐに目の前の扉から黒髪ボブの女性が出てきた。
大粒の涙を浮かべながら…
無言で抱きしめる。
「つらくなったら、いつでも私を頼って…また戻ってきても良いから」
つい…そう言ってしまった。
「はい…頑張ります……私…頑張りますね」
松川家邸宅、夜。
私は今、自分の子のためだけに極めて愚かな選択をしてしまったことを悔いている。
「では、ご依頼内容の方を今一度、確認させて頂きますね」
引き攣った微笑を浮かべる彼女と同じ部屋にいる…正直自分が生きている気がしない。
彼女のする表情において、引き攣った微笑というのは最悪の心理状態を指す。少しでもやらかせばきっと私達を殺すに違いない…
「あ…あぁ…」
「依頼内容は依頼人様の子である松川莉音様の探偵助手探し」
「そう…で…あ…ま、間違いありません」
いつもよりも平坦な声につい恐れてしまい、敬語を発する
「彼女が、ご希望の助手となります。名前は編田 葵、東大卒で弁護士資格を持つ、私の大切な仕事仲間です」
「ご紹介に上がりました…編田葵です」
隣に座る女性がぺこりと礼をした。
…先程から隣に座り無言な莉音が怖い。頼むから、絶対に、絶対にやらかすな…頼むから…
「そうだな〜…」
私の気持ちを理解しようともせず呑気そうに莉音は口を開く。
次回、(自称)主人公死亡!




