不倫調査依頼:不倫に関して天才的な調査能力を持つ探偵
最近私の夫が不倫している気がする。
夫は宇崎重工という企業の事務社員で、そこそこの地位にいる。
それはそれとして、最近あまり家に帰らなくなった。
本人に聞けば「残業だよ」と言うけれど、そんなにいきなり残業が家に帰れないほど増えるだろうか。
スマホは私が隣にいると少し傾けて私に見せないようにする仕草をし始めたし、それを置くとしてもいつも裏返しで、彼自身が目の届く場所にしか置かなくなった。
夫には知られてないけれど、実は私かなりのお金持ちなの。主に実家が旧財閥系なせいなのだけれど
「で、お金は幾らでも出すから最高の探偵に依頼したい…と」
目の前でそう言葉を発するのは銀髪碧眼のスーツとネクタイを着た少女。
ティーカップを持つ手には黒手袋が嵌められている。
こんな見た目だけれど、とある情報筋によればかなりの有能さんらしく、仲介役としてはトップクラスと評されているらしい。
「そうなの。どこもパッとしないじゃない?○○探偵事務所とか××探偵事務所とか…実績がよく分からないし」
私はそう言い、紅茶を飲む。
「ふむ、まず前提として…いや、私の私見ですが…基本的に探偵というのは、相当信頼できるお墨付きの人でもない限り、大金を積んで調査してもらう場合は、○○探偵事務所みたいなところではなく、しっかりとした企業系の方がおすすめです。企業系は色々な他企業と競走している訳ですし、その点を考えるとそれなりの実績と腕前がある…ということになりますから」
彼女はティーカップを置き、指を組んでそう言った。
(じゃあそういう"企業系"に相談しろということなの?)
私の疑問を吹き飛ばすかのように間髪入れず彼女は続けた。
「ただし、依頼人様が我が社を信頼し、仲介を求めていらっしゃるとなれば、我が社も全力でそれに応え、"天才的な探偵"を用意することも…やぶさかではありません」
組んでいた指を崩し、右手人差し指を唇に当て、彼女はそう言う。
「ん?つまり?」
「その依頼、○○○ほどの依頼料で受けさせてもらいます。その代わり、依頼人様の旦那様の全てを…詳らかにしてみせましょう」
人差し指の当たっていた唇を少し歪め、蠱惑的に笑った
「やった。早速用意するから、受け取り場所か口座番号でも教えて」
(たった○○○だけで夫の全てを知れるなんて。)
「依頼人様?○○○なんて額ですよ?もっと大切にと言いますか」
細く白い眉を下げ、彼女は少し困ったような顔をしてそう言った。
(何を言っているのか分からない。)
「それで受けてくれるんでしょ?安いじゃんこの程度」
「…そうですか。なるほど」
彼女はそう言ってまた無表情に戻った。
都内某所
ここは不倫調査において、天才的な調査能力を持つ探偵がいる場所。
"日本共同放送"本部。
その探偵が何故あの"NKH"にいるのか。
それは彼が事務所を畳んで"NKH"の職員となったからで、彼は今、若くして報道局の局長をやっているのだそう。
本部の中に入る。
「本日はどのようなご用件で?」
受付役の女性がそう声をかけてくる。
私が今着ているのは紺色のブレザーで、おそらくどこかの中高生と思われている。
「あの…私、林崎と言うのですけど…報道局の林崎局長に『妹が来た』と言伝を頼むことはできますか?」
少し声色を変えて、若干緊張しているかのような態度でそう言った。
すると受付役は優しそうな声色で言う
「分かりました。今伝えますね」
そして電話を取り少し話し始めた。
まぁ無論、嘘だ。
でも、林崎にはこれで通じる。
不倫調査の天才探偵の名は"林崎雄平"。
某有名私立を卒業したものの、何を血迷ったか探偵事務所を始め、結局依頼がなかなか来なくて路頭に迷いかけたところを偶然少し幼い頃の私が拾った。
その後、色々と依頼を投げていたら有名になり、依頼がなくともある程度生きていける職に就いたことでこちらとの関係が薄れ、最近は会わなくなった男。
その経緯から私のことを"姉貴"と呼んでいる。
正直…少なくとも十数歳若い相手に姉貴呼びはどうかと思う。
「今こちらに来るそうです。」
受付がそう言ったのでとりあえず
「ありがとうございます」
と頭を下げ、近くの椅子に座り待つ。
30秒もせず林崎が奥から飛び出してきた。
そしてこちらに走ってきて小声で話す。
「…あぁ…姉貴…言ってくれたら…もっと手厚い歓迎をできたんですが…」
息も絶え絶えにそう言った。
「依頼です。それも高値の…とりあえず外で話しましょうか」
そう言って席を立ち、外に歩き出す。林崎もそれに続いた。
「調査対象は舞田颯太32歳。依頼人である舞田菫29歳の夫で、宇崎重工に勤めており、不倫の可能性が依頼人により疑われています」
歩きながら私はそう説明する。
「なるほど…依頼料はどれくらいなんです?」
「○○○です。」
「え?マジですか。依頼人ってもしかして…」
「はい。少し調べてみたところ、旧安野系の直系の血を継ぐ銀行家一族の生まれのようです」
「旧宇崎財閥系所属の夫と旧安野財閥系の正統な血を継ぐ妻…ですか。」
「夫はそんなこと露知らず…といった感じみたいですがね」
「とんでもない家の娘をしれっと妻にしてそれを蔑ろにするなんて…まぁドラマにでもありそうな話ですね」
「…そうですね。とりあえず、依頼達成頑張ってください」
「姉貴の依頼とあらば喜んで」
そう言って林崎はニカッと笑った。
「こんにちは。奥様」
俺はまず情報を得るため依頼人と話すことにした。
「貴方が彼女の言っていた天才探偵さん?」
そう依頼人の菫さんが言う。
ちなみにここは某所のカフェで、事前に幾つかのやって欲しいことと共に待ち合わせのためのメッセージを送って依頼人を呼んだのだ。
「姉貴にそう呼ばれていたとは。光栄極まりないですね」
そう言うと菫さんは変なものを見るような目をした。
何か俺が変な事を言ったりしただろうか。
「それはさておき、メッセージ通りのことはやってくれましたか?」
「ええ、その情報を入れたスマホを用意したから、好きに使って」
そう言ってスマホを渡された。
「確認しても?」
「良いわ」
スマホの中には様々な写真や録音データが入っていた。
全て帰宅後の夫の行動や、帰宅後に所持していたバッグの内部に関係するもので、全て日付と時刻付き。
パパっと見て録音データもスマホを耳に当てて確認する。
…なるほど
「ある程度、理解できました」
「…?」
「あくまで仮説ですが…彼、毎週水、金曜日付近に愛人の家に行っている可能性が高いです。それも勤め先に近い場所で…おそらく相手は同じ企業勤めでしょうね」
様々なバッグの内容物の位置や日付、時間、スマホの配置、対象の声、依頼人への対応、服装から精査した結果、おおよそのことがわかった。
そう言うと菫さんは両手を口に当ててこう言った。
「ホント!?」
「おそらくは。1週間ほど時間をください」
「分かったわ」
「情報を集められ次第、呼びます」
1週間後、某所カフェ。
「どうして私も呼ばれたのですか?」
彼が自分でやると言っていた真相の説明と報告書の提示に何故か私も呼ばれた。
「久しぶりの依頼ですから姉貴にも聞いてほしいなと」
目の前に依頼人がいるにも関わらず私を姉貴と呼ぶ。
恥ずかしくないのだろうか
「じゃあ始めましょうか」
そう林崎が依頼人の目を見て言う。
「この間、話した予測は当たっていました。俺は1週間ほど宇崎重工の周辺を張っていたのですが、確認が取れました。水曜日と金曜日に彼が1人の女性と近隣の住宅街の1つの家に入っているのを確認でき、動画も撮ってきました」
そう言って林崎は、スマホ画面に彼が黒髪の女と二人で家に入っていく動画を映す。
「これは誰なの?」
依頼人がそう問う。
「当然、その点も洗わせてもらいました。姉貴に頼んでね」
確かに金を積まれたので仲介した。
「名前は天野瞳。年齢は24歳で、察しているとは思いますが彼の部下です。」
そう言って今度はチラリとこちらを見た。
私に説明しろと言うことだろうか。
コホンと言って私が続ける。
「幾つか洗ってみたところ、5年近くの付き合いのようです。彼女の大学時代、アルバイト先の"シテ"という風俗店で彼と出会ったらしく、宇崎重工への就職斡旋も彼がやったみたいで…肉体関係もその頃からのようですね。最近は回数が増えたようで。」
依頼人は面白そうに口を歪めながらこちらの話を聞いていた。
「何かもっと良い…決定的な証拠とかないの?」
そう依頼人が聞く。
…そういえば
「ありますよ。確か彼と彼女が某動画サイトに"ひとみとゆうへい"というチャンネルを作ってるみたいで、動画もあげてますね」
「あら〜」
依頼人がニタニタと笑う。
「ありがとう。こんな成果が得られるとは思わなかったわ」
そう依頼人が言う
「「ご満足いただけたようで何よりです」」
林崎と被った。
依頼人はどこかに電話をかけ始めた。
「もしもーし宇崎ちゃん。この間言ってた件の仲介やってもらったんだ〜え?寝てた?ごめーんまた今度お詫びに甘いもの買ってあげるから…え?うん頼み事。天野瞳ってやつクビにしといて〜えー?"もう辞めた"?そんな事言わないでよ〜叔父さんに言えば1発でしょ?ね?今度遊びに行ってあげるから…」
どうやら"宇崎ちゃん"という人が私のことを教えたらしい。
「じゃあ、俺は一足先に帰らせてもらいますわ。またいつでも呼んでくださいね。姉貴」
「また依頼が来れば呼びますよ」
「局長ってあんな可愛い妹さんがいたんですね」
どうやら姉貴の嘘が、俺のいない間に広まっていたらしい。
部下にそう言われて複雑な気分になった。
どう収集を付けよう
次回、某県警爆発




