兄と私
「お兄ちゃんはどうしていつも家の中にいるの?」
それは小さい頃、私が毎日感じていた疑問だった、私の兄は外に出る事は無くいつも家の中に居て外に出る事は滅多に無かった。
「ふむ、その言われ方だとまるで僕の仕事が自宅警備員だと思われそうだな」
兄は本がとても好きで部屋はまるで書庫の様になっている。そんな兄は既に十八歳で大学には行かず高卒だった。
「そうだな……僕は待っているんだ、友人が来るのを」
「毎日?」
「ああ、毎日だ」
兄はその友人と約束でも交わしたのだろうか? だけど、兄の雰囲気を見るとそうとは思えない、けど、嘘を言っている様にも見えなかった。
「お兄ちゃんは不思議だよね、いつも変な事ばっかり言ってる」
「そうか? まぁ、そうかも知れないな」
そう言いながら首を傾げながら兄は小さく笑い、私の頭を優しく撫ぜるとそのまま二階に行ってしまった。
「私はもう子供じゃないのに……」
まぁ、悪い気分では無かったから、頭を撫ぜられるのも……。
けど、翌日、兄……神月羅瀬は唐突に行方不明になる。私……神月瀬羅は必死に兄を探したが結局は見つからず、そして――。
「ん………ぁ?」
「目覚めたか?」
さっきのは夢? あぁ、お兄ちゃんが居なくなった日の事ね……。
「貴方、さっき私を助けてくれた人?」
「あぁ、ウルフの群れに襲われてる所を眺めてたんだがな、危なそうだから助けた」
つまり、貴方……いや、アンタは人が襲われてるのを高みの見物していたと?
「一度、殴っていい? ねぇ? いいよね? 人が必死に逃げてたのに眺めてたんでしょ? あの狼、もといウルフだっけ? 簡単に倒したんだからいつでも助けられたはずだしっ!」
八つ当たりだと言う事は理解していた、あの時、助けて貰わなければ私は今頃ここには居ないし、きっとウルフの餌になっていただろう。
「それだけ元気なら大丈夫だな、殴りたいなら殴ればいいだろう、それに一言言わせて貰うが、準備も無しに魔物が住む森に入る奴に言われたくは無い」
うっ、と私は言葉に詰まる。私はここに連れてこられたとしても、自分の意思で来なかったとしてもコイツの言ってる事はここでは普通の事なのだろうと思う。
「はいはい、ありがとうございました、それでここはどこ? ちなみにアンタの名前は?」
「ここは町外れにある森で、ここは俺の家だ、名前はガルム=ステッドだ」
「私はセラ=カンヅキ、此処から町って歩いてどのくらいかかる?」
名前が外国風なのに、言葉は日本語、コイツが私に合わせてる可能性はまず無い、とすれば、在り得るのは異世界よね……本好きの兄に影響されて私も本は沢山読んだからなんとなく理解できた。
「歩いて三日だな、ちなみに休まず歩いてだ」
「は? はぁあああああ?!」
私の目的、まずは町に行く……だったけど、これは色々と大変そうだった。