表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第八幕 社長令嬢、経済で世界征服を狙うのは結構ですが

魔法の国に“資本主義”を輸出し、知識とカリスマで革命を――

そんな華々しい触れ込みで登場した転生者は、果たして本物か、それとも見せかけか。

今回のざまぁは数字と倫理の授業ですわ。経済ごっこに必要なのは、計算だけではありませんのよ?

「――ごきげんよう。私はクラウディア・ホシノ・コーポレイション。前世は日本の財閥の令嬢で、IQ180の天才実業家ですの」


「……まぁ。随分と情報量の多い名刺でいらして」


王立アカデミーの講堂に響き渡る、高慢で計算された自己紹介。

金髪に不自然な紫メッシュ、胸には“C.C.H.(クラウディア・コーポレイション・ホールディングス)”と刺繍された謎の徽章。

まるで名札を付けて歩く自称天才の見本市。


彼女は転入早々に「学生起業制度」の申請を提出し、学内経済圏に**“資本主義の嵐”**を巻き起こしていた。



---


「見てごらんなさい。この“瞬間冷却ポーション”……たった5シルバーで、10分間の冷却効果。原価は1.2シルバー。売上は3日で1500枚以上」


「冷却……って、魔力で冷やした氷水じゃ……?」


「違うわ。これよ、“再利用可能な魔力結晶体内臓式冷却バッグ”。略して“レイバッグ”。

誰にでも使える、知識と資本の勝利。まさに、異世界経済革命!」


……あらあらまあまあ。


“魔法界に科学技術を輸出し始める転生者”の典型例ですわね。



---


私は静かにその場に現れると、丁寧に微笑む。


「ごきげんよう、クラウディア嬢。素晴らしい売上と、市場の刺激――どれも実に結構なことですわ」


「ええ、わかってくれる人がいてうれしいわ! 庶民相手の経済って、もう“ノリ”と“パッケージ”だけで売れるのよ。まるでインフルエンサーよね!」


「ですが、一点だけ気になりますの」


「……なにかしら?」


「レイバッグの結晶素材。“学園備蓄庫の試作品廃棄物”を無許可で流用していらっしゃいませんこと?」


「……っ!」


「しかも販売価格5シルバーのうち、3.8シルバーが“専属の取り巻き男子による買い支え”で捻出されております。要するに――自己資金で話題を演出していたわけですのね?」



---


ざわっ、と周囲がどよめく。


「さらに申しますと、“再利用”と謳いながら、再利用すればするほど“魔力素子の破断”が早まり、最終的には小規模爆裂反応を起こす、という物理的事実も……」


「そ、それは……まだ実験段階で――!」


「いえ、“爆発する可能性がある”という時点で、保健委員会と王立科学省の規定違反。しかも、その技術、既に15年前に発表済みのものと構造が酷似しておりましてよ?」



---


クラウディア嬢の顔がみるみる蒼白に。


「……嘘……私の知識は……前世で学んだエリート経営学が……通用しない……?」


「そう。異世界とはいえ、ここは“あなたの世界”ではなく“私たちの現実”ですの。

知識も、経済も、努力と責任が伴ってこそ価値がございます。」



---


その日の夕方、クラウディア嬢は自ら出資した“C.C.H.カフェ”の看板を静かに外し、学生起業制度からの撤退を宣言した。


「……ヴァンディール様。私、貴女のこと……ただの毒舌令嬢だと思ってたけど……」


「ええ。よく言われますの。でも、ひとつだけ違うことがございますわ」


「……?」


「毒舌は、真実に裏打ちされてこそ効力がございますのよ」


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回は、見せかけの知識と演出で走り出した“自称天才社長令嬢”が、リディア嬢の理路整然たる指摘により、自らの未熟さに気づくまでを描きました。

知識とは、誇るものではなく、活かすもの。

次章では、ついに“物語の主役”を自称する最終転生者が現れます。

誰の物語なのか――その問いが、物語全体に静かに迫ってまいります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ