第七幕 転生ヒロイン覚醒(自称)事件、発生中ですわ
覚醒、使命、選ばれし存在――それらは、響きはよくても根拠のないまやかし。
今回は“転生者あるある”を盛大に詰め込んだヒロイン様がご登場です。
けれどこの世界では、演出よりも、実力と誠意が求められますのよ?
「……リディア様。マリア嬢が、“前世の記憶が戻った”と宣言なさいました」
「……あら。前世の記憶ですの?」
「ええ。“私は地球という星の令嬢だった。名前はマリア・スズキ。特別な使命を持ってこの世界に転生してきた”と――」
「……“スズキ”?」
「はい。しかも、現代知識を使って“開運ミサンガ”なるものを校内で販売し始めたそうです」
「……それ、商業ギルド通ったかしら?」
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私は静かに扇子を閉じ、スカートの裾を整える。
「よろしいわ。久々に“異世界転生あるある”の添削タイムですわね」
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数時間後、王立アカデミー中庭。
そこでは、マリア嬢が熱狂的に語っていた。
「この世界を救えるのは、地球から来た私だけ! だから私は、王子殿下と“世界を変える革命”を起こします!」
「革命って……ミサンガで?」
「このミサンガには“愛と癒しと開運”の魔力がこもってるんですっ!」
……ええ、つまりは「手作りアクセを異世界で販売し始める」のテンプレですわね。
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そのとき、私がすっと登場すると、生徒たちがどよめいた。
「……あ、ヴァンディール嬢だ」
「今回もやるのか、“令嬢式公開ツッコミ”……!」
マリア嬢がこちらを睨む。
「来たわね……テンプレ破壊者!」
「まぁ、ありがたいご紹介ですこと。では、本日は“異世界転生キャラ自己診断”の時間ですわ」
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《異世界転生自己診断チェックリスト》
※リディア特製
1. 前世は地球の高校生かOLか主婦か?
2. 知識だけで“経済革命”を起こした気になっている?
3. 王子がやたらと好意的だから王子妃狙ってる?
4. 自分が物語の主人公だと思っている?
5. 既存令嬢を“悪役”だと決めつけていない?
「……5つ中4つ以上当てはまったら、それは“ただの自己陶酔”ですわよ」
「な、なによそれ……!」
「マリア嬢、貴女は転生者ではなく――**“転生という言葉に酔ってしまった平民の少女”**ですわ。
その夢から、そろそろ目覚めてはいかが?」
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マリア嬢は言葉を失い、ただ震えていた。
王子は口を開こうとしたが、周囲の生徒たちは既に冷めた目でミサンガを見つめていた。
「魔力、入ってなくね……?」
「しかもこのミサンガ、先週学園祭で売ってたやつの色違いじゃね?」
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私、静かに告げます。
「ヒロインというのは、選ばれるものではなく、“選ばれるに足る者”が自然と立つ位置のことでしてよ」
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数日後。ミサンガ販売は撤去され、マリア嬢はしばらく静養を取ることになり、謹慎として1週間の停学となった。
王子は学園での混乱を抑えられなかった責任を取って王城での1週間の謹慎を命じられた。
騒動は終息――と、思われたが。
「……リディア様。新たに“前世は日本の社長令嬢”と名乗る少女が転入されたようで」
「……ふふ。テンプレの耐久力、思ったよりしぶといですわね」
ご覧いただき、ありがとうございました。
“私は選ばれし者”と語るヒロイン様。その言葉の裏にあるのは、空虚な設定と未熟な承認欲求。
リディア嬢が示したのは、“夢”よりも“学び”が大切だという、ごく当たり前のこと。
次章では、新たな転生者――今度は“社長令嬢”が登場いたします。
知識の乱用か、それとも本物の改革か。どうぞご期待くださいませ。