第四幕 お可哀そうなヒロイン様、お気持ちは何グラムかしら?
お芝居がお好き? では、“本当のお話”を脚本にして差し上げますわ。
文化祭の幕が上がれば、隠された真実も暴かれる。
これはただの舞台ではなく――“ざまぁ”という名の、華麗なる講義ですの。
王立アカデミー最大の行事――文化祭。
貴族も平民も、この日ばかりは芝居とお菓子と笑顔に浮かれる、夢のような三日間。
しかし。
「……うふふふふ。とうとう始まりますのね」
私は、ホールの舞台袖でほほ笑んだ。
この日のために用意した“舞台劇”が、今まさに開幕する。
主催は演劇部。けれど、脚本は私。
題して――
> 『異世界転生ヒロイン様と学園の闇~パンケーキに秘められた陰謀~』
そう、あの事件を元に、若干の脚色(※盛りすぎとの噂あり)を加えた台本。
リハーサルでは、あの“パンケーキ横領事件”の場面で生徒たちが爆笑し、
“クライマックスのざまぁ台詞”で拍手喝采だったという噂。
ヒロイン様は止めようと必死だったらしいけれど……
「生徒会許可済みですの。民主主義って、素晴らしいですわね?」
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劇が始まると、客席はすぐさま大爆笑の渦。
「ナナ・クラリス・ユメドリーム役の子、すごい演技ね」
「“皆さんに笑顔を届けたい”って言いながら、平民から物資かっぱらうところ、最高に皮肉が効いてたわ」
「“パンケーキで世界を救う”って……どんな脳内設定?」
ええ、ええ。笑っていただければ幸いですわ。
笑いとは、最大の“ざまぁ返し”でございますもの。
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幕間。私は舞台裏で、やってきたヒロイン様と向かい合う。
「……どうして、ここまでするの?」
彼女は泣いていた。けれど、その涙はどこか、演技がかったものだった。
「わたくし、前世では……誰にも認められなくて、ずっと、耐えてきたの……。だから、この世界では……誰かに“選ばれるヒロイン”になりたかっただけなのに……!」
――ふうん。
なるほど、それはそれで少し、哀れではありますわね。
だから私は、静かに近づいて、そっと微笑む。
「“可哀そう”と“迷惑”は、別でございますの」
「えっ……」
「あなたの“ヒロイン願望”に巻き込まれた周囲が、どれだけ迷惑したか。どれだけ傷ついたか……少しは、お気づきあそばせ?」
「……そんなつもりじゃ……」
「ええ、きっと違いますわ。“そんなつもりはなかった”……それが、転生者の魔法の言い訳」
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そのとき、背後から別の声が響いた。
「リディア嬢、その辺でやめてあげなよ」
……あら、どなた?
振り返ると、金髪の美形男子――見覚えのない転入生がこちらを見ていた。
「おや、そちらはどちらのテンプレでして?」
「俺? “元騎士団長の無念を抱えて転生した最強剣士”ってとこかな。ユメミリアとは、前世で仲間だったんだよ」
……ええと、転生人脈は便利すぎませんこと?
「さて、あなたも“ざまぁ返し”なさるおつもり?」
「違うよ。俺は“守る側”のキャラだからね。――さあ、ユメミリア。帰ろう。お前のいる場所は、こんなとこじゃない」
……ふうん。ちょっとはロマンチック。
でも。
「ちょっとだけ、よろしいかしら?」
私、彼に近づいて――そっと言葉をささやく。
「“学園に入学したばかり”で、“パンケーキ事件の真相”をご存知とは……どこで聞かれたのかしら?」
「……!」
「そして、あなたの魔力波形。“あの掲示板の怪文書”のものと、一致しておりますのよ?」
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客席では、再び笑いと拍手の嵐。
ヒロイン劇場は、とうとうフィナーレを迎えた。
それを背に、私は静かに背筋を伸ばして歩く。
――これでおあいこ。
次は、どんな異世界テンプレが襲ってくるかしら?
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、嘘と演出に彩られた幻想に、リディア嬢が「真実」という名の照明を当てる回となりました。
誰かを落とすための舞台ではなく、皆が目覚めるための舞台。
次章、第5章では、テンプレに乗っかった“次なる刺客”の登場です。どうぞお楽しみに。