第三幕 “ざまぁ返し”のお返しは
ざまぁ返しの“お時間”――だなんて、少し急ぎすぎましたわね。
根拠なき噂や演出は、正論と事実の前ではただの泡。
さあ、次はどちらが“主役ぶっていた”か、舞台の上で確かめましょう。
「……私をコケにした事、絶対許せない」
夕暮れの中庭、赤く染まった花壇のそばで、ユメミリア嬢は声はかすれ、しかし声には確かな怨念を含んで佇んでいた。薄暗い空を背に、ヒロイン様の瞳だけがギラギラ燃えていた。
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翌日、廊下で待ち伏せしていたヒロイン様に
「――パンケーキ一枚で、ここまで叩き落とすなんて。あなた、前世で何か拗らせていらしたのでは?」
……まぁ、あらあら。負けを受け入れる清々しさ、ってやつはないのかしら?
「それに、乙女ゲームにありがちな脇役令嬢にしては、随分とご活躍なさっているわよ。目立ちたがりにも程がありますわ」
「いえいえ。“平凡なヒロインが実はすごかった”っていうの、ありがちな展開ですもの。むしろ私は、その逆張りですわ」
私がすっとスカートを摘まんでお辞儀すると、ヒロイン様はピクリと眉を動かした。どうやら彼女の“ざまぁ返し”が始まるようですわね。
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翌日。
「リディア様に、根も葉もない噂を流している人がいると聞きましたのよ」
学園中庭の掲示板に、怪文書が貼られていた。
> 『ヴァンディール公爵家の三女リディア嬢は、他人の恋を壊す毒婦である』
『学園内で男子生徒に複数接近しており、意図的にヒロイン様の評判を下げている』
『その笑顔の裏には、冷酷な陰謀が――』
「……あらまあ、まぁまぁ~フフフ」
思わず口元を扇子で隠しながら、私、笑ってしまいましたわ。だって――
その文章、“ネットの晒しスレ”みたいでしてよ?
「ちょっとお品がなさすぎませんこと? もう少し、語彙力というものを身につけてから名誉棄損なさっていただけます?」
騒然とする生徒たちの中で、私は悠々と怪文書を破き、ひらひらと花弁のように散らす。
が、その日の午後――さらなる一手が仕込まれていた。
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「リディア様。昨夜、男子寮の前でうろついていたと、目撃情報が」
「私、いまさら夜這いするほど困ってありませんのよ?」
「じゃあこの、魔力反応の記録は?」
「……おや、これは私の“靴に仕込まれた転送魔法具”の反応ですわ。あらあらまあまあ――どなたかが、私の靴を“盗んで”寮の前に置かれたようですわね?」
「……!」
ヒロイン様、固まりました。……ええ、そういうこと。
“逆襲”には、論理と証拠が必要ですの。
流言飛語で勝てる時代は、乙女ゲームのエンディングで終わりですのよ。
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「私、負けませんから……!」
「ごきげんよう。それは“次の逆襲もあります”という宣言でございますの?」
「あなた、怖い女ね……!」
「それは誉め言葉として頂戴いたしますわ。だって私――**“異世界転生の成れの果て”を研究する女”**でございますもの」
そして、私の頬にふっと笑みが浮かぶ。
「ええ、いま思い出しましたの――私、前世は“テンプレ展開に飽きた読者”だった気がしますわ」
「……は?」
「ですから、つまらない“異世界あるある”には、全力でツッコミとオチを差し上げますわ。」
ご覧いただきありがとうございました。
今回の“ざまぁ返し”は、感情論ではなく、証拠と観察と――少しの皮肉を添えてお届けいたしました。
真実は、涙よりも雄弁ですわ。
次回、第4章では逆襲の“仕上げ”を。どうぞ上品な決着をお楽しみに。




