表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第二幕 ご都合主義の上塗りは、おやめ遊ばせ

“かわいそう”の盾を掲げて迫る転生ヒロイン様――けれどその裏にある本音、見逃しませんわ。

涙も演技も、テンプレ通りでは通用しない。

今回も、公爵令嬢リディアが、上品に、そして華麗にお答えいたします。

「どうしてそんな酷いことを言うんですか!? 私はただ……皆に美味しいものを食べてほしくて……!」


クラリス・ナナミ・ユメミリア嬢(※以降、“ヒロイン様”)は、きらきらと大粒の涙をこぼしながら、教室の真ん中で声を張り上げた。


周囲の男子生徒たちは、彼女の演技にまんまと感化されているようだ。うっとりとした瞳で、「ナナミちゃんって優しいよな……」「あんなに純粋なのに……」などと、薄っぺらな共感を重ねている。


あらあら、皆様。そろそろ目を覚ましていただいてもよろしくてよ?


「美味しいもの……ねえ。ええ、私も召し上がりましたわ。“パンケーキ”なるものを。……あら、でもそれ、厨房のラルフさんのレシピと寸分違わぬ配合でしたわよ?」


「えっ……」


「しかも、使用していた粉――学園指定の備蓄品を、勝手に持ち出していらっしゃったとか? ヒロイン様ともあろうお方が、まさかとは思いますけれど、“許可なく”ということはございませんわよね?」


その瞬間、教室の空気が、ひゅうと冷える。


男子生徒たちはそそくさと目を逸らし、女子たちは「やっぱり……」とささやき始めた。


「私……それは……その、知らなくて……っ」


「知らなかった? まあ、それはそれは――ご都合主義の免罪符でいらっしゃるのね?」


私、リディア・ヴァンディール。影が薄いのは長所でございますわ。観察には最適ですもの。


そして何より、私には“特技”があるの。


《異世界構文翻訳》


前世の知識から、転生者の言動や行動を即座に“都合よく変換されたスローガン”から“現実の意味”に翻訳できる能力でございます。


例)

「皆を笑顔にしたい」→(自分が目立ちたい)

「努力しているだけなんです」→(知識チートで楽してるだけ)

「優しくされたい」→(チヤホヤされたい)

「イジメられてるの」→(可哀想なわたし)


……ええ、もう、全部バレてますの。


「ヒロイン様。貴女が目指している“ざまぁ”劇場は、ご自身が善人であることを前提にしていらっしゃいますのね。けれど、あいにく――」


私はすっと手を上げると、学園長の魔法通信水晶を掲げる。


「――こちらに、厨房スタッフからの抗議と、材料の持ち出しログ、そして衛生基準違反による調査記録が、届いておりますわ」


「……!」


ヒロイン様の顔が、みるみる蒼白になっていく。


「まあまあ。たかがパンケーキですものね。ごめんなさいって言えば、許されるとお思いでしょうけれど……学園の規則って、そんなに甘くてよろしくて?」


「そ、それは……っ!」


ヒロイン様が口ごもるその横で、男子の一人がぽつりとつぶやいた。


「ナナミちゃん……最初から全部、演技だったのか……?」


続いて、もう一人が。


「俺、ラルフさんのパンケーキ、昔から好きだったのに……あれが“自分のレシピ”って……」


……あら。おやおや。


“ざまぁ”って、こういう時に起こるのですわ。



---


私はすっと振り返り、立ち尽くすヒロイン様に、にこりと笑みを向ける。


「ねえ、ヒロイン様。“周囲に誤解されて孤立する私”って、好きな展開でしょう? いま、まさにその最中にいらっしゃいますの。おめでとうございますわ」


「……っ、あなた、ただのモブ公爵令嬢のくせに……!」


「はい。その“くせに”という言葉――まさに、貴女が私たちを見下している証ですわね。自覚はなかったのでしょうけれど」


あらあら。表情が崩れて、そろそろ涙の演技すら維持できなくなっていらっしゃる。


そんなあなたに、最後の仕上げを差し上げましょう。


「それではヒロイン様。今後は、“学園食堂・皿洗い係”として、精進なさってくださいましね? “転生者にありがちな労働忌避”――学園では通用いたしませんの」


ご覧いただき、ありがとうございました。

今回のテーマは“都合よく作られた被害者像”の解体でした。

リディア嬢のツッコミは毒舌ではなく、あくまで“気品ある正論”ですわ。

次回はいよいよ、ヒロイン様が“ざまぁ返し”を仕掛けてくる予感――どうぞご期待くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ