表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第十幕 テンプレなき世界で、私は微笑む

“ざまぁ”のその先に、何が残るのか。

間違いに気づくこと、他者から学ぶこと、自分で選びなおすこと――

それは誰にとっても、物語の主人公になるための最初の一歩。

最終章、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

春の終わり、学園の庭に風が吹く。

新芽が伸び、花はそっと綻び、人々の心もまた――知らぬ間に育っていた。


王立アカデミーでは、かつてのような“テンプレ転生騒動”は次第に影を潜めていた。


だが、それは――**“皆が学び、気づいたから”**である。



---


■□■


「リディア様。“マリア嬢とクラウディア嬢による『転生者と魔導社会の共生について』の公開講座、満員だったそうです」


「まぁ、それは素敵なことですわね」


執事エルネストの報告に、私は紅茶を口に運びながら静かに頷く。


「“転生者”という言葉に、かつては特権の香りがついておりました。

けれどいまは、“知識を持つ者は、他者のためにどう活かすか”が問われておりますわ」



---


学園内では、ざまぁ騒動に揺れた元ヒロインたちが、いまや自らの力で歩き出していた。


◆クラウディア嬢は、“魔導ビジネス倫理”の研究を始め、失敗した事業を分析し直す論文を提出。


◆マリア嬢は、地味ながら魔法薬の改良に取り組み、保健室の補助役として信頼されていた。


◆シオンは、「物語の主役とは“他者を動かす人間”ではなく、“他者と共に動ける人間”である」と語り、討論部の部長になった。



---


そして教師たちもまた変わっていた。


「“テンプレのような成功”を追うな。失敗こそが物語を紡ぐ鍵だ。君たちは、誰かの脇役で終わる存在じゃない。自分の選択で、自分が主人公の自分の章を書いていけ」


魔法史のグレン先生が、板書にそう記す。



---


私、リディア・ヴァンディールはというと、静かに学園の中庭を歩きながら、生徒たちの姿を眺めていた。


パンケーキ事件に巻き込まれた少年たちは、今や調理部で活動を始めている。


文化祭で私劇にされたヒロイン様は、いまでは脚本監修を担当している。


「……成長なさったのね。皆様」



---


かつて“ざまぁ”は、痛快で一方的な断罪だった。

だが今は違う。


誰かの間違いを嗤うのではなく、誰かの間違いから“共に学ぶ”。

それが、この学園の新しい“ざまぁ”の定義になったのだ。



---


夕暮れの校舎前。

新しく赴任してきた教師が言った。


「君は、何者なんだい? あれだけの騒動を乗り越えたのに、まだ中心に立とうとしない。君こそ、主人公だったんじゃないのか?」


私は、ふと微笑んで答える。


「物語に“主役”など、もはや必要ありませんわ」


「……?」


「一人ひとりが、自分の物語の主人公。

誰かの正義に従うだけの脇役ではなく、選び、迷い、成長すること――それこそが、この世界における物語でございます。」



---


最後に。


王立アカデミーの入学式に集う新入生たちへ、私は講堂でこう語った。


「皆さま、王立アカデミーへようこそ。今期生徒会長を就任いたしましたリディア・エグランティーヌ・ヴァンディールと申します。

これから歩まれる日々は、決して自身が思うような完璧な道ではございません。この学園で、正しいこと、間違っていることを学び見極め、

知識と力を“自分のため”だけでなく“誰かのため”にも使えるようになったとき――

あなたの物語は、ようやく本当の一歩を刻むのです。皆さまはご自身の物語の主人公です。道を外しそうになりましたら、わたくしが正論で論破いたしますので、ご安心して下さいませ。」



---


誰もが笑い、少しずつ前を向いている。

テンプレの時代は、終わった。


けれど、それでいい。

だって人生とは、未完成であるからこそ――美しいのですから。



---


[完]

ここまで物語をお読みいただき、誠にありがとうございました。

テンプレに頼らず、自ら考え、選び、成長する世界。

リディア嬢の姿は、決して“正しさを押しつける者”ではなく、“問いを差し出す者”でした。

誰もが自分の物語を歩けるように――

そんなささやかな願いが、あなたの中にも届いていたら幸いです。

また、どこかの物語でお会いできますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ