第一幕 ごきげんよう、転生ヒロイン様
転生、ざまぁ、婚約破棄――そんな“お決まり”があふれる異世界学園に、ひとりの公爵令嬢が立ち上がります。
毒舌? いえ、これはただの“正論”ですわ。
テンプレ展開に物申す、ちょっぴり痛快で、上品に刺さる異世界学園物、初の連載でつたない点もありますが、どうぞお楽しみくださいませ。
「――あら、ごきげんよう。ご尊顔の登場が随分と遅くていらしてよ?」
昼下がりのティータイム。午後の陽が差し込む窓辺のサロンにて、私はお上品に微笑んだ。紅茶はアールグレイ、菓子はレモンタルト。今日は、王立アカデミーに転生ヒロイン様が降臨なさると聞いて、心からお待ち申し上げていたの。
ええ、そう。私は公爵家の三女、リディア・エグランティーヌ・ヴァンディール。生まれながらに影が薄く、誰からも存在を忘れられる程度には地味なお嬢様よ。
でも最近、ようやく気づいたの。どうやら私、異世界転生者だったみたいですの。
前世の記憶が戻ったのは五歳の頃。気づけば「転生チート令嬢」などという類の物語を数多く知っていて、あらゆる“異世界あるある”を網羅していたわけだけれど……どうにも、腹が立つのよね。
なぜって、転生ヒロインというのは、どいつもこいつも、
・婚約破棄
・令嬢いじめからのざまぁ
・平民出の天才魔法少女
・周囲から溺愛され逆ハーレム
・前世で培った知識で現代アイテム開発
……あの、ごめんあそばせ?
産まれながらに厳しい淑女教育を受けてきた令嬢を愚かで意地悪なだけの脇役に押し込めて、転生者だけが「努力もせずに報われる構造」に、私の胃がキリキリするんですの。
「まあ、よくもまあそんなにもテンプレ通りに。まるで指南書でも読んでいらしたかのように完璧ですわね。逆に感動いたしましたわ」
私がそう皮肉ったのは、本日転入してきた「転生ヒロイン」様、クラリス・ナナミ・ユメミリア嬢。ええ、お名前からしてもう“盛ってる”感が否めませんわよね。
「この学園では、平民であっても才能さえあれば歓迎されると聞いて来ました! だから私は、努力して――!」
「あら、努力ですって? 前世の知識をそのまま引き継いで、パンケーキの作り方を披露したのが“努力”ということなら、厨房に篭もる料理人たちが泣いてますわ」
思わず紅茶を吹きそうになった男子生徒たちをよそに、私はエレガントにカップをテーブルに戻した。毒舌? いいえ、事実を申し上げただけですわ。
それにしても、転生ヒロイン様が主役になれる時代はもう終わり。ここ、王立アカデミーは――“転生者サンプル収容所”と化して久しいのよ。
ふふふ。そろそろ、"本物のざまぁ"の時間ですわね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
テンプレに染まった世界に、令嬢ひとりの正論が風穴を開ける――そんな物語の幕開けを、楽しんでいただけたなら幸いです。
“ざまぁ”とは罰ではなく、気づきのきっかけ。
次回も、どうぞ上品に痛快なツッコミ劇をお楽しみくださいませ。