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第4話

ドローン2機を防衛システムが撃墜した。


「また来たんだ…今日で5回目の奇襲だよぅ…」

「完全に目をつけられたな」

「停止してるのになんで飛んでくるんだろな」


今まで以上にドローンが飛んでくるようになった。世界各国でドローンの防災訓練が行われ始めて、益々ドローンの問題が国際的に見られている。

乗用車が通り過ぎる。ルーフには網を付けている車が多くて、ドローンの特攻に少しは耐えられるよう、自動車企業が格安で販売している。


1学期が終わり、夏休みになった。寮にずっといるのも嫌だし、倉庫に住み着くのもなんか嫌だ。そこで、実家に一旦帰ることにした。私の実家は埼玉県のど田舎。まだ外は安全じゃないから、アーロンに送ってもらった。


「気は抜くんじゃねぇぞ」

「うん。ありがとう」


サイドカーで走って行く。


ここはど田舎すぎてドローンが少なく安全に近いが、アーロンの通り気は抜けない。

和風の家。懐かしい玄関。中学のみんなは元気だろうか。懐かしい記憶が蘇って来る。辺りから蝉の鳴き声が聞こえる。


「ただいま」


ガタンとドアを開けると、廊下が続いている。

手を洗ってリビングに行くと、お母さんが正座をしながら待っていた。


「ただいま、お母さん」

「おかえりなさい。一二三」


筑波河内(つくば かわち)。私のお母さんだ。厳しいが、優しく、ツンデレ。真顔で無愛想に見えるが本当は大の家族好き。


「高校はどう?代替施設になったらしいけど、大丈夫なの?」

「うん」


2階の階段からダンダンダンと音を立てて降りて来る。筑波生駒(つくば いこま)。妹だ。


「生駒。静かに降りなさい」

「はいはーいママー。おかえりお姉様!」


高校1年の生駒は私と真逆の性格で、活発で元気旺盛。お喋り大好きの可愛らしい妹だ。

線香に火を翳し胚に立て、鈴を鳴らす。遺影に手を合わせた。

私のお父さんである筑波(つくば) 捌玖拾(やこのと)は、私が小さい頃に死んでしまった。南海トラフ地震によって建物が崩れ、下敷きになった。捌玖拾は旧漢字で八九十を意味する。お母さんは、お父さんから受け継いで欲しいものか何かがあって、私の名前を数字にしたのではないかと今でも思う。

だが見事、お父さんの性格は妹にそのまんま受け継がれた。クローンかと言えるレベルなのだ。逆にお母さんの性格は私に受け継がれている。


「ドローンのテロに巻き込まれるとは、散々だったようね。しかし、人に迷惑をかけてはなりません。況してや、命に関わること。勿論、あなたの命は大切です。ですが、自分巻き添えで何人共々死んでしまっては元も子もないのです。お分かりですね?」

「…はい。お母さん」


お父さんの死後、お母さんは自分の命最優先を掲げてきた。私のお父さんはロボット技師で、ロボットを守る為に自らを犠牲にして亡くなったと思っている。それはまだ、お父さんの死を受け入れられていないからなのかもしれない。本当は…。


「まぁまぁまぁまぁ。こんな暗くなるような話はしないでさ、もうお昼だしご飯食べよう!準備するから待ってて!」


妹の料理は絶品だ。祖母からレシピを教わって懐かしい味というものを再現できる。


「…お母さん。あの倉庫、まだ残ってるんだね」

「あんな巨大なもの、公に出すわけにもいかないでしょう」


お父さんが作ったロボットは実家の倉庫に鎖で固定され眠っている。全長は約10メートルの二足歩行型。法律上の問題で武装は工場で全て外され、津波に流された。設計図もなく、あるのはマニュアルのみ。ロストテクノロジーというべきか、ただの悲劇の作品というべきか。


「…お姉ちゃん。ちょっと、来てくれる?」


生駒に呼ばれて付いていくと、台所にはビデオカメラが付いたドローンが置かれてあった。


「…え。生駒、これ…何…?」


生駒が後ろから包丁を出した。


「見ての通り、お姉ちゃんを撮影するんだよ。切り刻むシーンをね」


襲いかかって来る生駒。まさに狂気。

玄関から発砲音が聞こえて、生駒を撃ち抜く。

猟銃のモシン・ナガンを構えたお母さんだった。


「逃げなさい。もうこの村も限界だわ」

「お母さん…?」

「話はまた今度。外でアーロンさんが待ってくれてるわ」


お母さんに手を握られ外へ出された。

アーロンがエンジンを吹かせて待機していた。


「こいつら機械人形だ!早く逃げるぞ!」

「あなたは行きなさい。私はこの村の人間として守る義務があります」


モシン・ナガンで村人を撃つお母さん。何がどうなってるのか分からない。


「混乱してると思うが、とにかく今は逃げるぞ」

「お母さんは」

「私は行きません。それにそのバイクは大人2人乗り。乗れないでしょう」


私は何を言いたいのか理解してしまった。


「やだ…お母さんやだ!」

「わがままを言う子に育てた記憶はありません。早く行きなさい。生駒がいつから入れ替わっていたか、いつからこの村が機械化したのか知らない。私だって理解が追いついていません。ですが、あなただけは護らなくてはならない私の義務がある。これは村人としても、親としても。もう二度と身近な人を死なせてたくない気持ちを、判ってください…」


少しお母さんの目から涙が浮かんでいた。

でも、それでも私は嫌という気持ちを抑えられなかった。


「ほら行くぞ!」

「やだぁ!」


私はアーロンに抱えられ悲鳴のような声を出した。

無理矢理座らせられバイクが走る。お母さんが少し笑ってたのを、見逃さなかった。どんどん離れて、視界が滲む。

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