雨女
ザー‥ザー‥
壁越しでも分かる大雨。
バケツをひっくり返したような空は蒸し暑さを更に加速させる。
梅雨の時期は客足が遠のく。
冷えや濡れに弱いエアガンは雨天では使いにくい。
特に主流となる電動ガンはいくらバッテリーが内部にあろうと故障の原因になる。
ガスガンも気温が下がると不調気味だ。
頑張ってコッキングガンで雨天サバゲーを楽しむ猛者は少数派だろう。
健一にとっての《本業》も似たような物だ。
撃てないことは無いがよほど堅牢な銃でなければアクシデントが起きるはずだ。
長モノならボルトアクションやカラシニコフなら問題無いが、ARやブルパップ、セミオートライフルは小まめに排水してやらねばならない。
今日は暇かと思いながら夜を更かす‥
何か気配がする。
バサバサ‥
水滴をほろう音に続いてハスキーボイスが響く。
「歯ブラシを変えました‥」
「ここだ‥」
どうやら雨の中、サングラス男のチェックを突破したらしい。歩きながら合羽のフードを上げる。
客は女だ。
20代後半から30代前半くらいか?
妙な色気は感じるが筋モノ特有のオーラは無い。
堅気の客だ。
「銃が欲しいの‥」
「座ってどうぞ‥」
いつものパイプ椅子を差し出す。
「種類と予算を言ってくれ‥分からなければ用途から話せ‥」
「相手は一人。丸腰よ‥恐らく室内‥」
「分かった。とりあえずこの中から見てくれ‥」
営業用の拳銃を幾つか見せる。
回転式、自動式、ダブルアクションにシングルアクションと様々だ。中にはトグルアクションという古いのもある。
「暴発や装填不良を避けたいなら38口径がオススメだ。素早く沢山撃ちたいなら9ミリ‥護身用なら32口径や25口径のオートだな‥」
一通り説明する。
使い方などもある程度実演してから質問する。
「手元に無い奴でも時間があれば取り寄せる。どうする?‥」
「ねぇ‥苦しみながら死ぬような銃は無いのかしら?」
見た目によらずな発言をする女。
「威力の差はあれど、大半は撃ちどころだ‥」
「そう‥じゃあ骨も内臓もぐちゃぐちゃにするような物を」
「ある‥だがそんな細い腕じゃ的に当たらんぞ。これは事実だ‥」
確かに強烈な威力の銃はあるが、大抵は警察や軍隊の精鋭が使う物だ。それ以外はハンターぐらいか。
筋力だけでなく訓練も必須だ。
目の前の女に扱えるとは思えない。
「弾を変えれば効果も変わるが、銃ってのは素早く相手を制圧する武器だ。なんなら刃物が向いてるんじゃ無いか?」
「これを見なさい‥」
女は左腕と右脚をめくった。
白く澄んだ肌が途中から固定具に変わっていた。
「こんなカタワでもやらなきゃいけない相手が居んのよ‥馬鹿にしないで!」
「気分を害して悪かった‥だが細身の女が片手で使える銃は威力に期待出来ないぞ」
「弾が沢山出て良く当たるのを頂戴。お金に糸目はつけないわ!」
「1週間後にまた来い‥」
「そう‥お願いね‥」
怪しく微笑む女は雨に飲まれて消えた‥