桜吹雪
「儲かりまっか?」
裏口前のサングラスの男が似合わないセリフを口にする。相手の反応を見る。
「ぼちぼちやな。お手洗い貸してくれ」
中年男性が返事をする。
裏口周辺には他に誰もいない。
しょうがねーなといった感じでサングラスの男は近づきボディチェックをする。片手に提げたキャッシュケースの中身も確認する。
「入れ‥」
どうやら合言葉は間違い無かったらしい。
一人の男は草むらに吸い込まれて行った。
「石鹸をくれ!」
少し大きめの声で男が呼びかける。
見た目は50代くらいだろうか?
疲れた顔だが眼力はある。白髪が目立つ。
白いシャツは汗で滲んで薄っすらと背中に彫り物が見える。桜吹雪だ。
ここ最近は猛暑日が続いている。
その筋の人間も夜くらいはラフになりたいのだろう。
「こっちだ‥」
倉庫の作業机に座ったまま健一は応える。
ゆっくりと男は近付いてきた。
「頼みたいことがある‥」
黙ってパイプ椅子を男の前に広げた。
男は座りキャッシュケースを開いた。
中には新聞紙の包みと札束が入っていた。
包みを開けると錆びれた拳銃が覗いた。
「コイツを使えるようにしてくれ。弾も欲しい‥」
《銀ダラ》
正式名称は54式拳銃。中国製の自動拳銃だ。
雑な仕上げを誤魔化す為に銀メッキを表面に施されている。その見た目からこのように言われている。
「わざわざ来て貰って悪いが、その金があればもっと良いのが手に入るぞ」
「‥これじゃなきゃダメなんだ!!」
男は強く主張した。
それなりの理由があるのだろう。
探りは入れない。
「分かった‥早ければ二週間後だ」
「時間が無い!5日で頼む!!」
無茶を言う。
こちらも商売だ。言わせて貰う。
「300万だ‥」
「え?」
「‥」
それだけあれば新品が安全なルートで手に入る。
だが短期間で直すならリスクが伴う。
銃刀法のある国なら尚更だ。
出せないなら引き取ってもらう。
「これだけ出そう‥」
500万出してきた。
ただの見栄でな無さそうだ。
「‥必ず直す。5日後にまた来てくれ」
男が帰って直ぐに銃を手に取る。
それなりに磨いていたらしいがやはり素人だ。
スライドの動きが渋く、スプリングも怪しい。
弾倉を外そうとしたがスムーズに抜けない。
これは古びた拳銃に良くある事だ。
「始める‥」
自分に言い聞かせて仕事に移る。