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終われなかった小説家

登場人物

小説家 

常連客 色々あった 女性

マスター

本屋を切り盛りするマスター 男性

女の子

予約してた本を取りに来た子 女性

「…私の好きな作品に記憶こそが時間という名言があるんだけど」

 ある街の寂れた本屋の中、女小説家はマスターに続ける。家具を整理しながらも彼は耳を傾けている。

「それって配信者にも言えると思えるのよね。」

「と、言うと?」

「今日夢に出てきたのよ。【こう】なる前に処遇推してた…あ、分からないかしら?推すって意味はね…」

「…いくら僕でも、それぐらい知ってますよ。誰かを好きになり、応援することでしょう?時には札束を捧げるらしいですね」

 今日予約されている本に埃一切付いていないブックカバーを掛けながら彼は眉をひそめた。

 構わず小説家は続ける。

「まあ聞いて頂戴よ。今は、甘えさせなさいよ。誰かに話さないと小説に出来ないのが私なの。だから毎日ここに通ってるんじゃない。」

小説家は、改めてカウンター付近に設置された椅子に座る。そして、目線を少し上げ本棚を見る。いや、

その眼には何も見えていなかった。彼にとっては当たり前の事のようで、この状態になってしまった小説家の語りは止められないことも知っていた。彼もまた、作業を止め耳を傾けていた。夕暮れが二人を包んでいた。



 私と彼女…そうね、えこさんとでも言おうかしら。彼女はね普通の女の子に見えたわ。他の子がずば抜けた才能や強みを持った中ただお酒と煎餅の話ばかりする子だった。それでも私にとっては魅力的だった。少なくとも仕事に破れ傷心中だった私にはね。なんの仕事だったかは前話したわね。

 正直に話すと当時の私は、中々に人として落ちぶれていたわ。今だから振り返れることでしょうけど。毎日布団に潜り食事も白米のみで済ませてた。貴方以外の一般人に話したら引かれるでしょうね。そんな中僅かな正気を保っていられる日にTwitterで見かけたのがえこさんだった。

 後から思うとえこさんも私と似た状況だったと思うの。私と決定的な違いは、【それでも】人と向き合い、人と触れ合う心が残っていた事。そんな彼女が私には輝いて見えた。私がえこさんに出会ったのは偶然でも、どんな形にせよえこさんが【初めての推し】になる運命からは逃れられなかったと思うの。…何その顔。どうせ

「貴方にしてはロマンチックな例えですね。」

とか内心笑ってるんでしょう。でも本気なの。当時の私を救ってくれたのは、私が人生で最高に愛した【推し】はえこさんだった。

 えこさんとの日々は最高に楽しかったわ。えこさんは話のネタが少ないからかもでしょうけど、煎餅の話ばかりしてた。幽霊に好かれやすい体質なことも打ち明けてくれたっけ。スプラトゥーンも一緒に遊んだのよ?最愛の【推し】と一緒にゲームしたの!!!本当に、幸せだったわ。彼女ゲームが上手すぎるのよ。プロゲーマーを勧めれば良かったわね…彼女に伝えそびれた後悔の一つね。

 でもそれでも、えこさんの配信はいつも私一人だった。謎よね。でも当時の私は何も知らなすぎた。あまりにも精神力が足りなかった。彼女の配信が終わるといつも眠気に襲われるの。彼女の配信だけが生き甲斐だったから。それに私には、【推し活】をする上で致命的に技術が足りなかった。


絵が描けなかったの。






「絵が描けない事がダメなんですか?」

彼は首を分かりやすく傾げる。理解不能理解不能理解不能理解不能……と表情に出している。

「そう、致命的にダメなのよ…」

はぁ………小説家は店内に響くほどの溜息を吐き、

「…ちょっと今は見つめないでくれる?」

と俯きどこからか出したハンカチで目を覆う。当然、紳士の心を身に付けている彼は背後の本棚に身体を向け作業をしながら傾聴している。

「ファンアートがね、推し活では絶大な威力を発揮するの」

「それこそ、たかが一緒で遊ぶ程度の事よりもね。」

「…………たかが?」

彼が口を挟むよりも早く一人の古参リスナーは続ける。

「勿論切り抜き動画やプレゼンも効果あるのよ?でも」

「……………でも?」

「当時の私にとって一番身近にできる、出来た筈の推し活がファンアートだったの」



「おしまいよ、おしまい。おわったの、全部」

小説家はそう、切り上げた。話題を打ち切った。物語を切り捨てた。

日も沈み、暗くなる。静寂が訪れる。


ぱち、ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち


店全体の照明がぱちぱちと付いていく。手慣れた様子で恐らく視界が潤んだ、一人の元リスナーに問いかける。目を見つめる。


「でも、結局はおしまいにできなかった…」

「そう」

溜息をつき、彼女は続ける。

「綺麗におしまいに出来たら良かったんだけどね」「そうおっしゃるのは実に残念ですね」

喰い気味に反論した。マスターは冷たく吐き捨てた

「貴方の話は面白いですから」

そう言うと彼は目を伏せ、どかっと椅子に座り愛読書である

【ほしの王子様】

を読みだした。





時計の短針が三周した頃だろうか。マスターは本をしまい一見ふて寝してる様に見える。小説家に問いかける。

「結局どこが導入に帰結するのですか、伏線放り投げるなんて貴方らしくない」

ふて寝しながら小説家は言葉を絞り出す。

「意地悪ね」

「僕も本好きなので、綺麗に終わらないとこう、内心複雑なんですよ。貴方の話は面白いから猶更先が気になるんです。」

「………仕方ないわね」



 よくよく考えたら貴方から語りだした物語の筈なのに何故僕が催促する側になっているんだろう?

今更ながら疑問が湧きつつも彼は催促を続けた。


「私思うのよ、結局覚えてる限り意味がある出会いだったんじゃないかって」

紅潮しながら彼女は続ける。

「私が、なんだかんだ終われなかったのも、えこさんに報いるためだったから。無力な自分が憎たらしかったから。」

当然その赤面は推しの事を思い出しての事だろう。とマスターは解釈した。

「覚えてる限り繋がりはあると思うから」

そうですね、とマスターは微笑しながら同意する。

「一度仲良くなったなら、責任は取るべきですからね。」

「この本にもそう書いてあります」






 朝焼けの眩しい中、その女の子は訪れた。


「朝早くすいません、昨日予約してたんですけど…」

 すやすやと毛布をかけられ座りながら寝ている彼女にその子は気付く。

「…もしかして、お嫁さんですか?」

高身長眼鏡マスターに美人小説家。しかも二人きり。推測されて当然だろう。

「ふふ、どうでしょうか。起こさないように小声でお願いしますね。」

高身長眼鏡マスターは慎重に丁寧に包装された本を女の子に渡す。女の子は満面の笑みを浮かべた。そして続ける。

「あの」

マスターは微笑しながら

「なんですか?」

と答える

女の子は少しもじもじしながら、しかし微笑を掛けられ安心したのか

「また、ここに来てもいいですか?」

と告白した。



「物語が好きなら、いつでもどうぞ」

























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