新たな仲間
いつの間にか暑さに慣れた私達は、モンスターを倒しまくっている。遭遇しやすく、かつ、私達が倒せるような雑魚は限られている。まず、ハリネズミ。正式な名前はフレイムベルム。棘がめちゃくちゃ熱い。攻撃は突進か、棘を飛ばすかのどちらか。こいつはグレンがスキルで致命傷を与え、私がとどめを刺す。あとは、大人と同じぐらい大きいムカデ。名前はバレイラ。こいつはグニョグニョ動くから狙いが定めにくい。よだれはマグマだし。で、最後は岩。生物ですらない。とにもかくにも硬い岩。ガレリユ。この三種類が私達のターゲットだ。
「そろそろ休憩しようぜ」
「うむ、ステータスを確認したいし、ちょうどいいじゃろうな」
魔石で結界を張り、モンスターに襲われないようにする。第2階層に来てから、ステータスを確認していない。HPやMPは常に表示されてるけど、その他はステータスを開かないと分からない。
「ステータスオープン」
名前:シオン
職業:呪術師
種族:白狐
スキル:熱無効
MP:10
HP:1000
攻撃力:20
防御力:30
速度:6
スキルポイント:0
や、やったー! ついに、HPが目標数値に到達した。あとなんか分かんないけど、スキルも獲得してる。『熱無効』は常時発動型で、MP消費は無し。こいつのおかげで熱さから解放されたのか。
「なあ、スキル増えとるんじゃが」
「俺も増えてた。獲得条件は何なんだろうな」
「さあな。何でもよいじゃろう」
ご飯を食べつつ、今後の方針について思案する。当初の方針を続けるか、スキル獲得に集中するか。
「何悩んでるんだ?」
私はあれこれ考えていたため、特に会話もなく食事をとる手も止まっていた。グレンは私が具合が悪いと勘違いしたらしく、心配そうにこちらを見ている。私は何でもない、と伝えて、ステータスを閉じる。はあ、いつになったら出られるのか。
「なんだこれ」
グレンは焦ったように声を上げ、急いで立ち上がる。私はそれを見上げた。地面を見ると、白い霧のような靄がいつの間にか充満してきていた。ひんやりとしている。つまり、冷気。この階層で冷気が発生するなんて、転移者の仕業以外考えられない。新キャラ登場か。
「アオト君、人がいます」
鈴のような澄んだ声が聞こえる。とてもこの世の存在とは思えないほど穢れの無い声。私は思わず聞き惚れてしまった。霧の奥に二つの影が浮かび上がってきた。霧が晴れると、影の正体が明らかになる。影の正体は、人間だった。
「お、人だ」
人影の正体の片方が声を上げた。さっきの声より低い。いや、さっきの声と比べるなんておこがましい。あれは、天使の声なのだ。そうに違いない。もう一人の人影に目を向けると、私は彼女から目が離せなくなった。
美しい艶を持つ、ツインテールの波打つ夜空の髪。深海のようにどこか孤独を感じさせる紺色の瞳。白磁の肌に華奢な体。彼女が鈴の音の声の持ち主。天使。彼女を一言で表すなら、その言葉が一番しっくりくる。
「おい、シオン。おい!」
グレンに肩を揺すられて、やっと現実に目を向けられるようになった。私も立ち上がり、二人に近付く。天使の相方は白髪に水色の瞳を持つ少年だった。グレンと同じ制服を着ている。同じ学校なのだろう。
「まさか、君とはね」
「生徒会長様が俺のことを知っているとは。光栄なことだ」
「皮肉? 随分生意気な。昔の君に戻ったのか」
バチバチと火花が散っている幻覚が見える。やはり、二人は知り合いだったようだが、何か、因縁があるみたいだ。しかも、昔のグレンを知っている。つまり、小学生からの付き合いということか。
「貴様ら、喧嘩をしている場合じゃないぞ」
普段は一切私達に関心を持たないウナギが、陸に上がってきていた。不思議と恐怖心はなかった。人数の問題だろう。今は四人もいる。グレンと二人というのとは訳が違う。相手は魔法系スキルを持っているようだし。
「自己紹介とかは後でしよう。今は目の前の敵をどうにかせねばな」
「ですね」
私の発言に天使が同意した。可愛い。この子だけは何を犠牲にしてでも守らなくちゃ。それが、私の為すべきことだと思った。天使からウナギに視線を移す。相手が陸に上がってきてくれたのは好都合だ。
「俺が突っ込む。生徒会長と青髪はサポート。とどめはシオン」
「なんでそこの狐がとどめ担当なの?」
アオトの問いかけにグレンは無反応。どんだけ仲悪いんだよ、こいつら。
グレンが前に出て、その後ろに天使とアオト。そのまた後ろに私。はっきり言って、現時点では私はただHPが多いだけの足手まとい。大人しく守られておく。
ウナギはおもむろに口を開けると、マグマをビームのように吐き出した。咄嗟に私達は左右に分かれ、攻撃を避けた。うへぇ、地面が溶けてるし。このままあの攻撃を繰り返されたら、地面はいつかなくなる。早く倒さないと。心は焦れど、頭は冷静に。どこからかそんな声が聞こえた気がした。私は深呼吸をして、三人の戦闘を分析する。
最初はグレンがスキルを使って体を切り刻んでいく。が、今まで倒してきたモンスター達と違って、なかなか致命傷とはならない。次に、天使が呪文を唱えた。戦闘音で何を言っているか聞こえなかった。呪文を唱えていると、モンスターの体が淡く光り、急激にモンスターのMPが減少していく。奪ってるのか? へえ、何だろう、イメージ崩された。案外えげつない戦い方をするなあ。
「アオト君、今です」
「少し、凍っててもらおうか」
アオトは背負っていた黒光りする狙撃銃の銃口をウナギに向けると、引き金を引いた。刹那、ウナギは氷に包まれた。すごい。呑気にウナギを眺めていると、グレンから怒声が飛んできた。
「シオン! 早くとどめを刺せ!」
「そんなに怒らんでもいいじゃろうに・・・」
私はウナギに近付き、目玉にナイフを突き立てる。顔だけを上手いこと凍らせなかったらしい。器用なことだ。ウナギは光の粒となり、消滅していく。特にアイテムがあるわけでもなかった。
「四人だと、簡単に倒せるんですね」
「そう、じゃな。さて、一段落着いたし、自己紹介でもするかの」
私の発言を皮切りに、それぞれ自己紹介をした。天使の名前はセイラ。種族は人間でヒーラー。グレンと因縁がありそうな男はアオト。人間でスナイパー。
「なぜじゃ、何なのじゃ! なんで人間率がこんなに高いのじゃあああ!」
「お、落ち着け。偶然だ、偶然。ほら、獣人ってレアキャラなんだよ、多分。いや、絶対そう! な?」
グレンが慌てて私を慰めようと見え透いた嘘を言う。レアキャラ? 確かに白狐はレアキャラかもしれない。だが、それが何だというのだ。人間以外の種族に出くわさない理由にはならない。私とグレンが揉めていると、セイラちゃんがクスクスと笑った。あ、そんな顔もできるのね。冷徹なイメージがさらに崩された。まあ、そっちの方が可愛らしい。
「ふ、そんな可愛らしい顔もできるのじゃな。ますます惚れてしまうのう」
「ほ、惚れて?! な、何をおっしゃってるんですか!」
少しからかってみれば顔を赤くして、今度はセイラちゃんがあたふたし始めた。面白い。
「お前、人たらしだよ」
溜息を吐きながらグレンにそう言われた。人たらしとは失礼な。昔のグレンの方がよっぽど人たらしな気がするが。アオトを見ると、爽やかな笑みを浮かべていた。こいつ、グレンみたいに分かりやすいやつじゃない。腹ん中で何考えてるのか分からない。仲間になりたくないなあ。でも、スナイパーとヒーラーは欲しいし。と、いうのは建前で、セイラちゃんと旅がしたい。アオトいらない。
「グレン、君、いい相棒を持ったね。本当に、羨ましい。君は僕が欲しい物を簡単に得ていくんだから。嫉妬してしまう」
「何を・・・いや、うん、そうだな。いい相棒だよ」
グレンとアオトの間に何があったかなんて知らないし、興味もない。でも、これから共に旅をすることにはなる。何とか仲良くやって欲しいものだ。
「皆さん、行きましょうか」
セイラちゃんに促されて私達は再び攻略を開始した。
や、やっとセイラちゃんを出せたー! このキャラを登場させるまで何作考えたことか