打倒ゴブリン
私は攻撃が被弾しないようにより一層離れた。ケガでもしたらたまったもんじゃない。壁に寄り掛かり、グレンの戦闘を分析してみようか。
五体のゴブリンはそれぞれ異なる武器を持っており、尚且つある程度統率がとれているらしい。まるでピラミッドのような形に並んでいる。前列には刃こぼれした剣を持ったゴブリンと棍棒を持ったゴブリン。後列は弓、大盾、槍を持ったゴブリン。
グレンとゴブリン達は数秒見つめ合うと、剣ゴブリンがグレンに突っ込んでいく。対してグレンは刀を素早く振り下ろした。はやっ! あいつ、速度の数値だけ異常に高かったような・・・? 剣ゴブリンはあっさりやられた。ゴブリン達には意思というものが存在しないのか、その光景を見ても果敢に挑んでいく。棍棒ゴブリンが突っ込むと同時に弓ゴブリンがサポートするが、速度勝負なら圧倒的にグレンが有利。こちらも難なく倒す。今度はグレンが突っ込み、刀を横に払い、三体同時に討伐。戦闘時間、およそ五分。
戦闘が終了し、グレンは刀に付いたゴブリン達の血を払って鞘にしまう。まさに、侍。
「お疲れ、本当にすごい武器じゃのう。あっという間に倒してしまった」
そう言うと、少々誇らしげな表情を浮かべ、鼻を鳴らした。生意気になりやがって。そう思いつつも何も言わずに流してやる。それぐらいの空気は読める。
「今回の戦闘で、わしは報酬なしか?」
グレンの戦闘を見て、気付いたことをぶつけてみた。今まではグレンと同じポイントとゴールドが与えられたが、今回私は一切手出ししていない。その場合、どうなるのかよく分からない。こういう時はグレンに聞くに限る。
「えっと、一度も攻撃をしていないと戦闘不参加扱いになるから、報酬は無しだ」
「やはり、そういう基準か」
「お前、本当に読んだのか? メールとか」
グレンは、何かにつけて質問してくる私を流石に不審に思ったらしい。だが、私は墓場まで持っていくと決めたのだ。今更覆せはしない。にこりと笑って、先に進む。暫くするとグレンの足音がついてきた。
「また宝箱じゃ」
度々スライムやゴブリンの集団に出くわしたが難なく討伐し、彷徨い続けると、いつぞや見つけた宝箱の色違いがあった。この前と同じく傘で開けてみたが、トラップは無し。中身は大量の魔石と和紙だった。
「は? なぜに和紙?」
「呪術師用の装備らしいぞ。ほれ」
グレンに渡され見てみると、確かに私が扱うべき物だった。しかし残念。呪符作成スキルがないと意味はない。アイテムボックスの肥やしとなる未来しか見えない。和紙は私が全て回収し、魔石は換金して二人で山分けする。
これで、二人とも武器を手に入れたことになる。さて、武器の次はやっぱり・・・
「防具じゃな!」
「突然どうしたんだ? 大声出して」
「いや、武器の次は防具かと思ってな。生産職の人間に出会えればよいんじゃがのう」
私がそう言うとグレンも同意するように頷いた。そんな都合良くいくわけないと思ってはいるが、多少希望を持っても罰は当たらないはずだ。あと、ヒーラーも欲しいな。遠距離攻撃担当も欲しい。そうすると三人必要になる。
「なんか、暑くないかの?」
考え事をしていると、どこからか熱気が流れ込んできている。今まで少し肌寒いくらいだったのに、まるで、転移前の外のような。
「もしかして、外かもしれない」
「グレン、このダンジョンは10階層もあるんじゃぞ。そう簡単に脱出できてたまるか」
「う、そうだけど・・・」
熱気の正体を探るべく、部屋のようになっている場所に足を踏み入れる。熱気の正体は地面に描かれた魔法陣だった。触れると火傷をしそうなほど熱く、思わず後退りしてしまう。すると、魔法陣の上に説明書きが表示された。
「これ、転移陣か。次の階層は、火山じゃと?」
「転移陣って熱すぎて乗れねーよ」
グレンがそう言った途端、熱気が引いていく。触れても、地面と同じ温度だった。なるほどね、発見したら熱が引いていく。これはある意味モンスター避けってわけだ。第1階層のモンスターが侵入しないようにするための。バグが起こってもいいように。
「さて、グレン。心の準備はよいかの?」
私がそう問いかけると、ニヤリと彼は笑った。いざ、第2階層へ!
ダンジョン小話
グレンのモデルとなった花「赤薔薇」の花言葉
「情熱」・「愛情」