新たなる武器
「なんか、面白味に欠けるのう」
私がそう言うと、グレンは一瞥しただけで特に何も言わなかった。グレンも思っているはずだ。ずっとスライムにしか出くわしていない。ここいらで新しいモンスターか人に出会いたいものである。
私達はひたすら無言で歩き、スライム達を確実に狩っていく。もう、日付は見ないようにした。これは、お互いに決めたことだ。転移させられて何日経った、なんていちいち気にしていたら気が滅入る。終わりのない旅の中でただただ突き進むしか方法はない。あと、純粋にスマホの充電が切れた、っていうのもあるんだけど。ちなみに明かりはショップで懐中電灯を買った。
「おい、あれ見ろよ」
グレンの声に反応して顔を上げてみれば、宝箱が置かれていた。怪しい。いかにも罠ですよ、と言わんばかりに怪しさ満点だった。
「行くなよ」
私は花の蜜に誘われる蝶の如く、宝箱にふらふらと近付いていくグレンに声を掛けた。グレンはしょんぼりと肩を落としてこっちにゆっくりと戻ってきた。ステータスに関する情報収集は慎重なくせに、こういうことには好奇心の方が勝ってしまうらしい。
「はあ、普段の慎重さはどこに行ったんじゃ。何か、長い棒はないのか? もしくは、ペンを繋げて長くするか」
「遠くから開けるってことか? ちょっと待ってろ」
グレンがアイテムボックスから青の傘を取り出して、私に渡してきた。は? なんで?
「わしに開けろというのか?」
グレンはそれはそれはいい笑顔で私に傘を押し付け、宝箱の方に押し出していく。おい、待て、なんでよ。何で私が生贄みたく差し出されてるの。この流れだとグレンが行くのが筋じゃないの? いや、違う。こいつ、最初から・・・!
「謀ったな、グレン! 貴様それでも男か!」
「シオン、その発言は時代遅れだ。さあ、行ってこい。死んだら骨は拾ってやるから安心しろ」
「安心できるか! 裏切り者! 人でなし!」
最低だ、こいつ、本当に虐待とかされてたのか? 逆にする方じゃないか。くそっ、騙された。
渋々宝箱に近付き、蓋に傘の持ち手と反対の先を引っ掛け、慎重に蓋を持ち上げていく。焦らず、慎重に。あとちょっと、というところでグレンが中身を確認しようとしたのか私の背中を押した。その拍子に傘が蓋から離れ、閉じてしまった。
「あ」
「グレン、ちょっと離れてくれんか。暑苦しいし、何より邪魔じゃ」
「すまん」
気を取り直してもう一度。さっきと同じようにして、蓋を開ける。今度は最後まで開けることができた。蓋が完全に開いても特段何も起こらなかった。私達は顔を見合わせ、宝箱に接近していく。
「何も、起きないな」
「じゃな。本当にただの宝箱なのかもしれぬ」
宝箱の中には刀と隙間を埋めるように敷き詰められた大量の宝石が入っていた。
刀を手に取ると説明書きが出てきた。やっぱり、前衛専用の武器らしい。黒地に赤い金魚が描かれた鞘に黒い柄。破壊不可、その他に特殊な能力はないらしい。
「グレン、これは貴様が使え。わしには扱えんタイプの武器じゃ」
「へぇ、刀か。しかも、ユニークときたか」
「ユニーク? 何のことじゃ」
「ユニーク武器のことだ。破壊不可で同じ物は存在しない。生産職のコピースキルでも複製不可。もっといい物だとMP消費無しでなにかしらの力を使える」
グレンの説明に耳を傾けながら、大量の宝石に手を伸ばす。これ、宝石じゃなくて魔石だ。色んな属性のがある。赤は火、青は水、緑は風、黄色は地、透明は光、黒は闇。MPを消費することで様々な効果を発揮するらしい。火の魔石なら焚き火代わりになり、水の魔石なら水を生み出し、光の魔石なら傷口に当てれば治すことができ、闇の魔石はMPを事前に蓄えておくことができる。風と地はそれぞれ物理、魔法の結界を展開できる。手のひらサイズでそこそこ大きい。各属性一つずつ身に着けておいて、残りはアイテムボックスに入れるか。
「ステータスオープン」
ショップに行くと、装備品の欄で茶色の革製のウエストポーチを二つ購入する。すると、アイテムボックスにウエストポーチが増えていた。取り出すと、一つを刀を調べているグレンに差し出す。
「グレン、この中に魔石を一つずつ入れよう。戦闘中にアイテムボックスを開いてる余裕なんてないからのう」
「ああ、分かった。ポーチ代いくらだ? 払うよ」
「いや、友好の証とでも思ってくれ」
「なら、ありがたく。それにしてもこの刀、すげえな。初期装備のナイフより随分切れ味が良さそうだ。リーチもあるし。今まで以上に楽な旅になるんじゃないか」
「スライムしかおらんかったがな」
皮肉たっぷりに言ってやると、グレンはスタスタと先に行ってしまう。事実だろうに。
グレンの新しい得物は手に入ったが、私の分がない。呪術師は何事にもスキルが付いて回る職業だ。呪符を作るにも扱うにも。呪符はショップで買おうと思えば買える。だが、使い捨てのアイテムだし、一枚1000ゴールドもする。食事やMPポーションが必要になった時のことを考えるとおいそれとは無駄にできない。早く、スキルを獲得しないと。いや、単独でもある程度戦えるぐらいステータスの数値を上げないと。
今後の方針を変更するか悩んでいると、ガサッと音がした。グレンは早速刀を構え、私は斜め後ろで待機する。
「ゴブリンじゃ・・・」
緑色の肌に粗末な武器。服、というにはあまりにも雑な腰巻き。スライムよりは強いだろうが十分雑魚に分類されるモンスター。私だけならともかく、グレンがいれば負けることはないだろう。私は大人しく守られておこう。ゴブリン五体ぐらいどうってことないだろうし。
「全て倒せよ」
「今は強い武器があるから大丈夫だ。シオン、下がってろ」
「ほお、随分なかっこつけじゃのう」
「うるせえ」
グレンはナイト気取りでそう言った。何も知らない奴が見たらさながら白馬の王子様にでも見えるんじゃなかろうか。泣き虫グレンを知らなければ、だけど。
ダンジョン小話
シオンの花言葉:追憶、君を忘れない
ストーリが進むとこの意味が分かる、かも?