初めての仲間
辿り着いた先には、様々な色のスライム達に囲まれている少年がいた。私と同じくらいの年齢だろう。学ランを着ており、ナイフを振り回している。少年よ、目を瞑っていては倒せるものも倒せんぞ。
私は溜息を一つ吐き、彼に加勢するため近付く。スライム達は私の気配にすぐに気付き、突進してくるが、痛くも痒くもない。青いスライムは若干ひんやりしているし、赤いスライムはほんのり暖かいが。それでも精々そんなもん。ただの人間には害にはならない。
私は冷静に一匹ずつ狩っていく。その間、少年は突然現れた私に警戒心を抱きつつ、観察しているようだ。
「ふう、これでよかろう。少年、大丈夫か?」
早速、事前に考えていたキャラで接してみる。だって、白狐って神様の使いかなんかでしょ? 老人みたいなしゃべり方ぴったりじゃん。少なくとも私はそう思う。少年はナイフを下ろし、私に近付いてきた。
「お前も、転移者か?」
「うむ、貴様もか?」
「ああ」
お互いに短く会話をする。彼は黒髪に赤い瞳を持っている。種族は恐らく、人間。ちょっと羨ましい。
「わしはシオン。白狐じゃ。職業は呪術師。貴様は?」
「俺はグレンだ。種族は人間。職業は侍」
おお! 前衛が早速見つかった。なんと運のいいことだろう。今は二人ともスキルはないが、このままポイントを貯めていけば補い合えるようなスキルを獲得できるはず。
「のお、提案なんじゃが、わしと組まぬか? 前衛と後衛は相性が良いと思うんじゃが」
私がそう言うと、グレンは悩み始めた。多分、信用できないんだろう。提案しておいて何だが、私もこいつがダンジョンを作った側の存在ではないかと疑っている。だけど、今は信じるしかない。生き残ることが最優先だ。
「分かった。お前を信じる。改めて、よろしくな、シオン」
「うむ、こちらこそ。早速で悪いが、今後の方針について話そう」
一旦座って、お互いの方針を話し合った。私はスキルは当面は獲得せず、ステータスに割り振ることを伝えた。グレンはHPを上げつつ、スキルを獲得していく方針らしい。
「お互いの方針は維持、でいいだろうな。ただチームとしてはどうする?」
「一つ、いいかの?」
「何だよ?」
私は一度息を吐き、ずっと思っていたことを口に出す。
「あんたのそれ、作ってるでしょ」
「え」
ギクリ、という効果音が聞こえてきそうなほど、分かりやすい反応をしたグレンは明後日の方向を向いて口笛を吹いた。おい、誤魔化すんじゃない。私も素で話したんだよ。
グレンは私の冷ややかな視線に気が付き、嘆息を漏らした。そして、何で私みたいにキャラを作ったのか聞かせてくれた。
「俺、いや、僕さ、いじめられてたんだよね。学校で。いじめって言っても殴られるとか激しいやつじゃなくて、無視されたりするぐらいなんだけど。まあ、それはいいんだ。別に。そのことを親に話したら、『お前が弱いから悪いんだ』って親父に殴られて。その日から、家族からも虐待されるようになって。ほんと、死にたくて死にたくて・・・ダンジョンに来てからちょっと、見栄張ろうと思って」
どんどん目の光が失われていき、最終的にグレンはさめざめと泣き出した。そういうところが弱いって言われるんじゃないの、という言葉が出掛かったが何とか呑み込んだ。うん、こいつが本気で辛い状況にいることは理解した。だからと言って私にできることはない。はっきり言ってここから生きて出ることが最優先。他人の不幸を聞いて慰めている場合じゃない。そもそもなんて言ったらいいか分からないし。
「で、お前は何でキャラ作ってるんだよ」
ピタッと泣き止んだかと思ったら、キャラグレンに戻った。切り替えすげえな、こいつ。ある意味メンタル鋼じゃねえか。それを元の世界で使えばいいのに。上手くやれるよ、多分。
「えっと、白狐って老人みたいなしゃべり方かなーって」
「しょーもな」
しょーもなくて悪かったですね。ええ、そうですよ。理由なんてペラっペラですよ。
「なあ、フレンド機能って、知ってるか?」
怒りを抑え込もうとしている私を他所に、グレンがぽつりと呟いた。何のことか分からず、首を傾げると、グレンは苦笑してステータスを開くように言った。
「メールボックスの隣にハートマークがあるだろ? それで俺の名前を検索してみろ」
「うむ。出てきたぞ。登録すればいいのか?」
「そう、そうしたらフレンドのステータスが見れるようになるんだ。魔力感知のスキルを使うと、フレンドは名前付きでマップ上に表示されるようになるんだと」
「物知りじゃのう。まさか、全部に目を通したのか?!」
「は? 当然だろ。生きるか死ぬかの状況で、碌に情報収集しない奴なんて、ただの死にたがりか愚か者だろ」
死にたがり、愚か者。グサグサとグレンの発言が私の心に突き刺さった。グレンは私が碌に情報収集をせず、その場の流れで何とかなっていることを知らない。よし、誤魔化そう!
「あはは、そうじゃな。情報収集は基本中の基本じゃな」
「だろ? さて、そろそろ行こうぜ。仲間も増やそう。流石に二人じゃきつい」
「あ、ああ。そうじゃな。行こう行こう」
私の様子がおかしいことは分かっているようだが、グレンは何も言わずにダンジョン内の探索を開始した。なんとか誤魔化せた。よかった。このことは墓場まで持っていこう。
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