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・報告→蒸発

 全てが終わると、僕はリアナ様の待つ共有倉庫に戻った。

 僕はリアナ様に一部始終を報告し、一緒に硬い倉庫の床で笑い合った。


「さすがにそれは、陛下も心の底からは、信じていないんじゃないかしら……」

「そうだろうね。でも、妥当な着地点だと思う」


 リアナ様の傷はいまだに治る気配がない。

 時が止まっている世界で治癒というのも変な話だ。


「私が外に出ないと、ここにある宝は外に取り出せないのよね……?」

「うん、そうだよ……」


 もしかしたら、リアナ様は永久にここから出られないのかもしれない……。


「大丈夫、ゆっくりと治っているみたいだから」

「僕、もっと良い薬、探してくるから!」


「ありがとう、でも無理はしないでね。私、ここに居られるだけで幸せだから」


 お金が必要だ。

 リアナ様の傷を癒す薬を買うためにも、商売を始めたい。

 僕はリアナ様にそのことを相談した。


「何でも預かる預かり屋さん?」

「うん!」


「ふふっ、本当になんでも預かっちゃうの?」

「うん、そうだよ。それが僕の力の取り柄だから。……それに、僕たち一族が勇者にだけ尽くす時代は、もう終わったんだ」


 僕たち一族の役目は終わった。

 だったら一族最後の僕が好きに生きたって、僕たちを造った神様もきっと許してくれるはずだ。


「そうね、今までありがとう。この倉庫、凄く助かっちゃった。まさかここに、自分が入ることになるとは、思わなかったけれど……ふふっ」

「僕も同感だよ。ぁ……」


 その時突然、リアナ様の冷たい身体が僕を抱き締めた。

 リアナ様は刺された傷口は塞がったと言っているけど、でも傷が癒えたわけじゃない。


 リアナ様のお体は、今も死にかけのままだった……。


「何でも預かる預かり屋さんの話をしましょ。何か予定はあるの?」

「うん……。せっかくだから、国を出ようかと……」


「ええっ、それには私も賛成よ! それでどこに行くのっ?」

「それはまだ、全く決めてないけど」


「ならおすすめの町があるわ。花がいっぱい咲いていて、町がとても賑やかで、でもちょっとだけ治安が悪いのが玉に傷の、素敵な町があるの」

「人が多い場所……?」


「そう。ナユタのその力は、物の置き場がないほどに建物や物でひしめいている町でこそ、活躍出来る力だと思うの」


 人と物が集まるのだから、そこにはギルバードのような悪い人たちもいっぱいいる。


 それと薬も。

 町に集まってくるたくさんの薬の中に、リアナ様の傷を癒してくれる物があるかもしれない。


「……わかった。リアナ様がそう言うのなら、そうしてみる」


 でも、それはそうと……。

 リアナ様はいつまで、僕の背中に両手を回しているんだろう……。


「ナユタの体、温かい……。いつかここから出られたら、二人で一緒に、預かり屋さんをしましょうね」

「いいの……?」


「もちろん。だって楽しそうなんだもの。なんでも預かる、ってところが、凄く面白そう!」

「じゃあ、約束だよ……。傷が癒えたら、一緒に僕とお店を……」


「ええ、約束する! その日が今から楽しみね!」


 僕たちは約束を交わして、時の止まった世界でさらに夢を語り合った。


 どれだけの時がかかるのかわからないけれど、僕はリアナ様の傷を癒し、外の世界に出すことを人生の目標にすることにした。


 旅と共に終わると思われていた僕たちの関係が、これからもずっと続く。

 この冷たい肌と、倉庫への幽閉生活を代償に。


 だけど僕は、こうしてリアナ様と一緒にいられるだけで幸せだった。

 これから僕は、僕のためにこの力を使う。



 ・



―――――――――――――――

 その後ナユタが聞いた風の噂

―――――――――――――――


【ライルズ元大尉】

 勇者リアナ殺害未遂の罪を認める。

 現在、罪を償うために軍の懲罰部隊に所属。

 3年間生き残れば恩赦。死ねばそれまで。

 生存の可能性はわずか5%。


【ギルバード・ヘインズ】

 勇者リアナ殺害を試みた疑いにより、貴族の地位剥奪、財産没収の上、ヘインズ公爵家を追放。


 その後、公爵領内で裁かれ、監獄への送還中に行方知れずになる。

 公爵(デューク)と名乗る高慢な冒険者の噂を聞くが、同一人物かは不明。


 ヘインズ公爵家は諸侯に糾弾され、ギルバードの身柄に莫大な懸賞金をかけた。

 生死は問わず。


【大魔術師ベラ】

 ベラは監獄に収監された。

 勇者を殺害しようとした彼女に味方はなく、収監者たちによる陰湿的なイジメを受ける。

 一度は逃亡を試みるも、ギルバードの懸賞金額を知り震え上がる。

 結局、自ら独房に戻った。


【ナユタ・アポリオン】

 新しい町が気に入り、店を開いた。

 毎日が閑古鳥。でも幸せ。


【元勇者リアナ】

 倉庫で暮らす優雅な日々。

 傷は癒えず、外には出られないけど、幸せ。


――――――――――――――


ご支援いただきありがとうございます。

おかげさまでランキングに入り、順調な滑り出しとなりました。

引き続き応援いただけると嬉しいです。


また次話から新章になります。

ための展開が3話ほど続きます。

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[良い点] 閑古鳥は草
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