・告発→嘘
「デタラメを言うなっっ!! あの女は確かにあの時……っっ! こ、この小僧は、嘘を吐いています、陛下っ!!」
ギルバードのその叫びは国王陛下の耳に届かなかった。
年輩の大臣と国王が密談を始め、やがて疑いの目がギルバードに向けられた。
「ギルバード、お前たちは勇者リアナに何をした?」
「な、何も……して……ぅ……っ」
全てを見ていた僕に視線を送られると、ギルバードはしどろもどろになって口をつぐんだ。
「ギルバードたちがパーティの共有倉庫を使えなくなったのは、彼らがリアナ様と敵対したからです」
「い、いい加減なことを言うな、クソガキがッ!!」
「共有倉庫の契約者はリアナ様で、リアナ様の許可により、彼らに開放されていた状態だったのです」
あそこでリアナ様が死ねば、共有倉庫の権利者はギルバード辺りに移っていたはず。
だけどリアナ様は生き残った。
ギルバードは愚かにも王の御前で、僕から宝を引き出せないところを見せてしまった。
それが裏切りの証拠だ。
「お、お待ちになってっ! そんな片目の不気味な怪物と私たちっ、どっちを信じるかなんてっ、考える必要あるぅっ?! ギルバード様は、次の公爵様なのよぉっっ!?」
注目がヘインズ公爵に集まった。
公爵は静かに咳払いをし、忌々しそうに僕を見た。
それから……。
「いや、約束をしたわけではない。ギルバードの疑いが晴れるまでは、私も世継ぎに指名する気はない」
「約束が違うではないかっっ、父上っっ!!」
「黙れギルバード。不満があるならば、疑いを晴らしてからにしろ」
どちらにしろ、ギルバードたちは僕から宝を取り出せなければ、予約していた地位や領地を得られない。
この状況を打開する方法があるとすれば、それはリアナ様と和睦することだ。
「ナユタ・アポリオンよ、一つ二つ問おう」
「はい、陛下、なんなりと」
「なぜ勇者リアナと、この者らは敵対することになった? なぜ、この者らは、勇者リアナは死んだと、余たちに偽証したのだ?」
ふふふ……ついに、この時がきた……。
僕の目の前でリアナ様を刺したこいつらを、最高の舞台で告発する時がやってきた!
「や、やめ……」
「待って、待ちなさい、天使ちゃ……ナユタッ、待って!」
今さら謝っても、もう遅い!!
この薄汚い裏切り者め!!
「陛下、僕は見ました。僕の目の前で、この3人はリアナ様を刺しました」
「ち、違うっっ!!」
「でも賢いリアナ様は、苦しそうに血を吐きながら僕にこう命じました。『ナユタ、私を預かって』と」
ギルバードたちはリアナ様のとっさの決断に驚き、言葉を失った。
そんな手があったのかと、口を開けっぱなしにして立ち尽くした。
だから今日までかき集めてきた宝を引き出せなかったのだと、もう納得するしかなかっただろう。
「リアナ様は生きています、僕の中にある共有倉庫の中で」
「全てこの小僧の妄想ですよっ! 陛下、信じるならば名誉ある公爵家の俺の方でしょうっ!」
「ねぇ、ギルバード。君がどうしても往生際悪く否定すると言うなら、リアナ様が黙っていないよ?」
「な、なに……っっ?!」
「リアナ様は、もし外に出れば生きていられるかもわからない状態なんだ……。だけど、必要なら、君の暴走を止めるために、外に出て証言するって言っている」
「バ、バカな……」
「そうなったら、ますます自分の立場が悪くなることくらい、わかるよね……?」
これで僕の完全勝利だ。
それなのにギルバードは僕を睨むのを止めない。
殺気はらんだその目が次に何をするかくらい、僕にもわかってしまった。
剣を抜き、僕の首を斬り落とす。
そうすれば逆転勝利だって、思ったんだろうね……。
でもそれは違う。
1つだけ、アポリオン族と契約者の間には明かされないルールがあった。
きっとそれがないと、関係が成り立たないと神様が考えたんだろう。
ギルバードの剣は僕の首を狙って振るわれ、そして首に命中すると、そこでピタリと音も立てずに止まった。
一見は殺害を躊躇ったように見えただろう。
でも実際のところは『甲は乙を殺害することは出来ない』という、神様のお情けによるものだった。
「乱心したかギルバードッッ!」
息子の暴挙に公爵が叫んだ。
「な……う、うぉぉぉっ、何をする貴様らっ、離せっ、離したまえぇぇっっ!!」
ギルバードは近衛兵に押さえ付けられ、床に組み伏せられた。
僕はそんなギルバードを冷たい目で見下ろしてあげた。
「陛下、実は僕たち、もう1つだけ隠していたことがあるんです」
「まだ秘密があるか。よかろう、聞かせてくれ」
「はい、実は僕たち……魔王を倒してなんかいないんです。僕たちはアーティファクトも、1つも回収なんてしていません」
最後に嘘を吐いて、僕は陛下の前にひれ伏した。
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