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・契約→不履行

「天使アポリオンの末よ、よくぞ一族の宿願を果たした。お前たちを生み出した神々も、天上でさぞや安堵している頃だろう」

「ふふ……そうかもしれませんね、国王陛下。ふ……ふふふふ……っ」


 とうとう笑いを我慢出来なくなってしまった。

 奇異の目が僕に集まり、特に後ろのギルバードたちが僕の笑いにとても驚いている。


 僕が絶望していたと思った?


 まさか!


 確かに悲しいことはあったけれど、リアナ様は僕の中で生きている!

 憧れのリアナ様が、他でもない僕の中で、療養して下さっているんだ!


 なんて光栄なことだろう!

 リアナ様とお別れせずに一緒にいられるなんて、なんて僕は幸せなんだ!


「おいナユタッ、陛下の前で突然笑い出すとは何事だねっ!」


 ギルバードが叫ぶので振り返ってやった。

 僕が勝利の笑みを返してやると、ギルバードは根拠もないのにうろたえた。


「天使ナユタ・アポリオンよ、長旅ご苦労。してそなたが蓄えた宝なのだが、それは我が国に献上する契約となっている。出してもらえるな?」


 国王陛下の言葉に、僕は静かに首を横に振った。

 それは出来ない。


「申し訳ありません、陛下。僕に倉庫の扉を開けと命じられるのは、該当する倉庫の契約者様のみとなっております」


 なんて融通の利かない能力だろう。

 僕はずっと自分のこの力のことをそう思っていた。


 けれども今ならわかる。

 僕たち倉庫番がルールをねじ曲げてしまったら、依頼人と品物は守れないんだ。


「おお、そうだったな。勇者ギルバードよ」

「はっ! ナユタ、今日まで蓄えた金、アイテム、武器防具の全てをその床に取り出せ!」


 僕はまた後ろを振り返り、ギルバードに首を小さく傾げてみせた。

 ギルバードと僕はしばらく見つめ合った。


「おい、出せと言っているだろう!」

「それは、『ギルバード様が僕に預けた品物』を、ってこと?」


「そうだ! 早くしたまえっ!」

「わかったよ」


 僕はギルバードから預かった土産物を床にまき散らした。


 女が好みそうな宝石や、騙すための安いガラス玉、諸侯に献上するつもりだったらしい魔物の頭骨とかを、床いっぱいに捨ててやった。


「これが、旅の成果……? ギルバード、奪還したアーティファクトはどうした?」


 それは勇者リアナ様名義の倉庫に収められている。


「こ、これは私の個人的な土産物ですっっ! おいっ、何をやっているこの間抜けっっ! 俺はパーティの共有財産を、ここに出せと言っているのだよっ!!」


 もう1度、僕はギルバードに首を傾げてやった。

 僕はまだ14歳の子供だ。

 言っている意味がよくわからない、って。


 するとその場にいた諸侯は、ギルバードたちの成果を怪しみだした。


 僕の一族は今日まで、一度たりとも人間に逆らったり、倉庫の中身をちょろまかしたりなんてしなかった。

 特に後者は不可能だと、この場のみんなが知っていた。


「どうも雲行きが怪しくなってまいりましたな……」

「アーティファクトらしい物は1つもない。彼らは本当に、魔王ルゴールと戦ったのでしょうか?」

「アーティファクトこそ魔王を討った証拠、それがないようでは……」


 普段のギルバードなら剣を手に僕の前に迫る。

 だけれど今の僕は、王の御前にいる。

 この悪党が僕に危害を加えることは出来ない。


「ナユタ・アポリオンよ、話が見えぬ。これはどういうことか、我に説明してもらえるだろうか?」

「はい、陛下のご命令とあらば喜んで」


 この時を待っていた。

 僕はうやうやしく国王陛下に頭をたれ、まずは真実を伝えた。


「確かにパーティの共有財産は僕の中にございます」

「それはよかった。ならばなぜ出さない?」


「いえ、出さない(・・・・)のではありません。出せない(・・・・)のです」

「うむ……? それはどういう意味だろうか?」


「僕たちアポリオン族の力は『誰かに命じられた時のみ』発動します。逆に言えば、僕は『自分の意思で自分の力を使えない』ということです」


 なるほどと、国王陛下は髭を撫でた。

 続いて怪しむようにギルバードたちを一瞥だけした。


「つまりは彼らは共有財産の、正当な権利者ではないと、そうそなたは言いたいのかな?」

「はい」


 王ならば慣れているであろう事務対応で返した。

 僕が自分で出来るのは、管理のために自分の中の倉庫に入ることだけ。


「ふざけるな貴様ッッ!! 権利ならばっ、既に我らに移譲しているはずだろうがっっ!!」

「そうよ、どういうことよっっ?! なんで私たちが、私たちの財産を取り出せないのよ、変じゃないっ!」

「……っっ!? ま、まさか……」


 冷静なライルズは察したようだ。

 軍人らしい厳しさと、強者ゆえの傲慢さが入り交じったその顔に、じわじわと焦りの感情が浮かんでいった。


 それが僕にはおかしくておかしくて、失笑をかみ殺すだけでも大変だった。


「ナユタ・アポリオンよ、ならば別の問いにしよう。誰ならばそなたから、パーティの共有財産を取り出せる?」

「はい、今はリアナ様ただお一人です」

「ッッ……?!!」


 僕が答えると、ライルズの喉から悲鳴めいたものが上がった。

 それはギルバードとベラにも伝播して、1つの答えを突き付けた。


「それが本当ならば、勇者リアナは死んでないということになるが、どうなのだ、ナユタ・アポリオンよ……?」

「い、生きているわけ……ないわよ……」



「はい、リアナ様は、生きておられます」



 謁見の間がさらに大きくざわついた。

 どういうことなのだと、ギルバードは父である公爵に糾弾された。


 答えられるはずもない。

 自分たちが刺しただなんて。

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