・エピローグ 僕≒アーティファクト=野良猫 4/4
「質屋の看板でお客様を呼び込み、サイドビジネスとして預かり所と小売りを行う。まずはこのような戦略を執ることをわたしはお勧めします」
「うーん……閑古鳥が鳴くよりは、いいのかな……」
「まともな質屋が増えれば、高利貸しに引っかかる人がそれだけ減るということです。わたしは立派な社会貢献になるかと思います」
『ふふ……。まともじゃない質屋や、高利貸しに逆恨みされてしまったときは、私の出番ね』
だから、止めて……。
僕たちでどうにかするから、リアナ様は療養に徹して!
「先ほどから言葉が少ないようですが……もしや、お嫌ですか……?」
「そんなことないよ。ちゃんとした商売なら、僕も賛成。リアナ様のお身体のためにも薬を――わっ、わぁぁっっ?!!」
フロリーさんが突然、僕を胸の中に包み込んだ。
少しでも早く目的地に行きたかったから、馬車は僕たちの貸し切りだ。
御者さんが僕たちのことを笑っていた。
フロリーさんはあれから、ますます健康になって、ますます可憐な人になっていた。
「こんな晴れやかな気分は久しぶりです。ああ、自由とはなんていいものなのでしょう。家に縛られず、自分の商売を好きにできるだなんて、まるで夢のよう……」
「は、離して……っ、御者さんに笑われてるよ、離してフロリーさん……っ」
「どうしてこの感動を理解して下さらないのですかっ!? 自分で品物を選び、それを自分たちの店で好きに売れるのですよ!? 当たり前のことのようで、それがどんなに感動的なことか、ナユタ様はわかっておりません!」
リアナ様は外の世界に出られない。
僕は外の世界ではずっと独りぼっちだった。
「わかった、全部やろう。全部やるから、勘弁して……恥ずかしいよ……っ」
でも今は隣にフロリーさんがいる。
暖かな日差しと爽やかな青空の下で、馬車に揺られながら同じ目的地を目指している。
「そうですかっ! ロートシルト家の財力をもってして、必ずや事業を成功させてみせましょう! 母の仇を取って下さったご恩に、わたしは報いたいのです!」
こうして僕たちはイエローガーデンを捨てて、別の国の、全く別の性質を持った国を選んで移り住んだ。
そこに新しい希望や楽しい出会いがあると、そう信じて。
僕はこの勇気ある友人、フロリー・ロートシルトを尊敬している。
彼女に商売のコツを教わりたいと思っている。
『ナユタ、後でこちらにきなさい。彼女に愛想を振りまいた分、私にも愛想を振り向きなさい。いいわね?』
「え? は、はい……?」
『ほら……自分に懐いていた野良猫が、他の人に甘い声を上げているのを見ると、なんだかとても、切ない気持ちになるでしょう?』
「まあ、なります」
『そういうことよ』
僕はナユタ・アポリオン。
天使ではなく、剣もまともに振れないただの弱い人間。
だけどその実は、猫らしい。
・
きっと、この先も僕は騒動とは無縁ではいられないだろう。
この力はあまりに圧倒的で、全く融通が利かない、時として悪人の手助けをしてしまうことすらある、とても扱いづらい力だ。
願わくば次の町では、後ろめたいことに与することなく、正しくあれることを願う。
なぜならば僕は、勇者に仕えるべくして創られた天使アポリオンの、その最後の末なのだから。
僕は執行を司る天使サリエルに代わり、イエローガーデンにて正義を執行した。
それが神ならざる者の傲慢と評価されようとも、僕はもう決して迷わない。
僕はただ、反逆を決意し立ち上がった一人の女性に、手を差し伸べただけだ。
彼女を助け、その願いを叶えただけだ。
僕はきっと、神がもたらした奇跡をもたらす遺物、アーティファクトと何も変わらない。
いや、それ以上にたちが悪い。
人が願い、僕がそれを叶える。
道具は願いを拒めない。
望まれれば、望まれただけ、叶えてしまう。
それが僕。
一人の女性のために、大商会の消滅というあまりに多くの代償をイエローガーデンに支払わせた、一人の悪魔。
それが僕。
僕は自らの意思で動く危険なアーティファクトそのものだ。
……でも実は。
猫らしい。
――― おわり ―――
本作はこれにて完結です。
ここ1ヶ月間、ありがとうございました。
次の新作公開まで、
平行連載作「少年王子の領地開拓」あたりでも読んでいただけると嬉しいです。
次の新作は、コメディと無双展開の強い、明るい転生ものになります。
初心に返って、コッテコテの転生主人公で始めます。
文体も軽いノリでするする読めるようになっています。
どうかこれからも応援して下さい。




