・凱旋→謁見
隣国の国境砦にたどり着くと、そこに出迎えの馬車が3台も待っていた。
そこにはギルバードの父、ヘインズ公爵の姿もあった。
「よくぞ帰った、ギルバード」
「労いの言葉は聞き飽きたよ。それよりも約束は覚えているだろうね、父上?」
「もちろんだ、お前を新たな世継ぎとしよう。さすれば、ヘインズ公爵家の領地と権威がさらに大きく広がることに、間違いないのだからな」
公爵は一言もリアナ様の話をしなかった。
まるでこうなることを知っていたかのように、凱旋パレードの準備まで済ませていた。
大型の馬車が整備された街道を快速で進み、その日の夕方に僕たちは祖国の国境砦を抜けた。
さらに翌日の朝には王都郊外までやってきて、昼過ぎには凱旋パレードをもって迎えられた。
リアナ様のことを嘆いてくれる人たちもいたけれど……。
大半の人たちは、ギルバードたちの嘘に騙されていた。
山車の上で手を振るギルバードに、都の女の人たちが黄色い声を上げて、男たちが彼こそが真の英雄と賞賛した。
ライルズはそれを支えた頭脳派の従者。
ベラは心清らかな聖女様、らしい……。
僕に手を振ってくれる人たちもいたけれど、どうしても手を振り返す気にはなれなかった。
それにどちらかというと、滅び行く種族の最後の一人に、同情の目を向ける人の方が多かった。
東門からスタートしたパレードの山車は、大通りを通って西門側まで寄り道してから、城のある中央へと戻り、その白く仰々しい城門の内部へと飲み込まれていった。
「おお、英雄ギルバード様! 陛下が首を長くしてお待ちです!」
僕たちは文官に導かれ、休むことなく真っ直ぐに謁見の間に案内された。
玉座に腰掛ける国王陛下の御前へ、僕たちは膝を突いて頭をたれた。
「陛下っ、申し訳ありません!! このギルバードがっ、リアナ様を守るべき立場であったというのに……っ、みすみす、あの魔王ルゴールに……」
この男はどれだけリアナ様を利用すれば気が済むのだろう。
ライルズは悔しそうに歯を食いしばる振りをして、ベラは嘘泣きをして同情を誘おうとした。
「リアナ様の名誉を汚すつもりはありませんが、魔王を討って下さったのはギルバード様です。リアナ様は、ルゴールに手も足も出ませんでした……」
でも僕の心に怒りや苛立ちはない。
どっちかというと、笑いを堪えるので必死だった。
ギルバードたちは自分たちが置かれている状況を、まるでわかっていない。
ナユタ・アポリオンを、ここまで護送してしまったことの意味を。
「ええ、リアナ様は勇者の証を、ギルバード様に譲ると言っておられましたわ……。ギルバード様こそ、真の勇者と、死の寸前に……」
残念だけど、勇者リアナは死んでなんかいないよ。
僕の中で、僕が差し入れたお茶を今頃は優雅にすすっている。
「そうか……うむ、よくぞやってくれた勇者ギルバードよ! そなたこそがこの世界の救世主だ!」
「はっ。しかし私は一人でも多くの民の笑顔を、ただ守りたかっただけなのです、陛下! はっはっはっ!」
「うむ。してギルバードよ、旅のもう1つの目的、忘れてはおるまいな?」
「はっ、魔王軍より奪い取りし数々の財宝、アーティファクトを無事この手に奪還いたしました!」
ギルバードが立ち上がり、後ろの僕の手を引いて自分と同じように立たせた。
そしてギルバードたちは後ろに下がり、謁見の間の中央には僕だけが残されることになった。
ありとあらゆる権力者の注目が、この僕に集まっていた。
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