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・エピローグ 大商家ロートシルトの消失 2/4

 エドマンド夫妻は屋敷を出て、商会が所有する郊外の畑を訪ねた。

 もちろん、それも消えていたわ。


 よく管理された綺麗な菜の花畑よ。

 こちらの世界にある限り、枯れもしない代わりに育ったりもしないのだけれど。


「あ、兄貴ぃ……親分が、話、あるってよぉ……?」

「なんか……マジっぽい、話だぜぇ……? 言葉、気ぃ付けた方が、いいぜぇ……?」


 エドマンドには、詐欺師や女衒をしていた頃からの親分がいたわ。

 ロートシルト家の乗っ取りにより立場が逆転していたのだけれど、それがまたひっくり返った。


 エドマンド夫妻はヤクザ者たち捕らえられ、親分のところに連れてゆかれた。


「待ってくれ、金ならすぐにできる。俺はロートシルト家のエドマンドだ! 金なんてどうにでもなる!」

「けどな、エドマンド。どうも、雲行きが怪しいじゃねぇか」


 エドマンドはすぐに気付いたそうよ。

 これはただお叱りを受けるだけでは、済まないと。


「頼む、親分、俺のことを信じてくれ……」

「お前には領主も見切りを付けた。金の卵を産まなくなったガチョウを、生かしてやる道理はないな?」


「待ってくれ親分っ! 金なら今日まで流してやっただろっ! 俺を見捨てるなっ、俺は、エドマンド・ロートシルトなのだぞっ!!」

「農場に送れ」


 ヤクザが農場を経営しているなんて、そんなの聞いたこともないわ。

 きっとそれは、明るみになることのない特別な農場なのね。


「待ってくれ! あそこだけは勘弁してくれ! 頼む、どうか待ってくれ親分っっ!!」

「あ、あなた……? アタシたち、どこに連れて行かれるの……?」


「ッッ……敗者が、行き着く、場所だ……」


 エドマンドとその妻サシェはその日を境に消えた。

 ここからは私の推測になるけれど、国が禁止している奴隷農園か何かではないかしら。

 それもまともではないたぐいの、劣悪な。


「兄貴、これ、俺たちからの餞別だ」

「受け取ってくれよ、兄貴!」

「おお、コッゾくん、オッゾくん……ゲハッッ?!!」


「よくも今日までバカ扱いしやがったなーっ、兄貴!」

「よくも散々殴ってくれたなぁ、兄貴!」

「き、貴様らっ、止め――アアアアッッ?!!」


「ふーースッキリしたぜぇぇ! あばよ、兄貴!」

「二度と帰ってくんなよーっ、兄貴!」


 けれどこの話を聞いて私は思ったわ。

 フロリーの母の殺害から家の乗っ取りまで、全てがエドマンドの単独犯と考えるのは、少し無理があるのではないかしら。


 黙認した領主とのパイプとなる共犯者がいたはずよ。

 その共犯者は、エドマンドが全てを白状することを恐れたのではないかしら。


 つまりエドマンドは、闇に身を置き過ぎたのね。

 そして最後は闇に飲まれ、舞台から奈落へと消えた。


 以上がエドマンド夫妻についての最後の足跡よ。

 世の中には知らない方がいいことが山ほどある。ということね。


 こうしてフロリー・ロートシルトは、情け深いハッピーエンドで終わる陳腐な童話のように、己を辱めた家族に手を差し伸べたりは――決してしませんでした。


 めでたし、めでたし。


 精一杯に娘を守って生きていた母親の幸せを、我欲のために壊した男に、赦しなんていらないわ。


 エドマンドとその妻サシェは表舞台から姿を消し、歪んだ両親に育てられたベリオルは、徹底的にその腐った性根を叩き直されたのでした。


「俺様、何もしてないのに、なんでこんな目に遭うんだよぉぉーっっ?!!」

「何もしなかったからだ、このクズッ!」


「だってだってよぉーっ?! 腐ったオヤジとババァを持った俺様にっ、フロリーを助けるなんて絶てぇー無理ジャン?!!」

「犬以下のクズめ! 貴様は犬と同じ扱いをされなければ、わからないようだな!」


「サイコパスの両親に育てられた俺様に同情してくれよぉぉーっっ!!?」

「いまだに反省なし、だと……? なんというクズの中のクズ……! 便所の黄ばみの方が、まだ清らかだ……!」


 アレが改心したら奇跡ね。

 改心されたら気持ち悪いから、一生クズのままを期待してしまうわ。


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