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・執行の天使が微笑む日 - 不死身+執行者 -

「そんな……本当に、天使、だというの……?」

「バカなっ、こんなバカなことがっ!! 排除不能の、差し押さえ人だとっ!? こんな、こんなデタラメな存在がいてたまるかっっ!!」


「ど……どうするぅ、オヤジィ……? お、おいお前らっ、こいつをやっつけろよぉっ!」


 あの間の抜けたチンピラコンビは、応接間の外からコソコソとこちらをうかがっていた。

 彼らはベリオルに呼ばれてドタドタとやってくると、とても困った様子で僕のことを見る。


「や……やられたふりっ、してくれねぇっ!?」


 それはできないと、僕は静かに首を横に振った。


「兄貴がぶっ殺せねーんだからよーっ、俺らが殺せるわけねーじゃん!? じょ、常識的によーっっ!?」


 彼らは小柄な僕に恐怖している。

 危害を加える力なんて、こちらにはないというのに。


「あーーっ、俺ら、洗濯物干しっぱなしだったわーっ!」

「あーーっ、そういえばそうだったわー! 兄貴、俺らまた後で駆けつけるわーっ!」


「これたらまたくるわぁーっ!」

「そんじゃまた後でーっ!」


 チンピラコンビは逃げ出していった。

 引き留める隙すら与えない鮮やかな遁走だった。


「では、そろそろ閉幕といたしましょう。この復讐劇のカーテンコールに、あなたたちの出演は必要ありません」

「閉幕、だと……? 町一番の役者だったこの私をっ、カーテンコールからハブるだとぉぉっっ?!!」


 あ、そこ怒るところだったんだ。

 人には譲れない何かや、逆鱗がある。

 でも僕とフロリーさんには、もうどうでもいい。


 というより、フロリーさんの言う『閉幕』の意図がわからない。

 彼女はいったい、何をするつもりなのだろう。


 僕たちが作った脚本は『フロリーが全てを取り戻す』で、大ざっぱに終わっていた。


「よ、よくわかんねーけど、止めるジャン?! お、お友達からやり直そうジャンッ?! お、俺様、一応かわいい弟ジャーンッッ?!!」

「一応母であるこのアタシを助けなさいっ! 止めて……何をするつもりなのわからないけれど、止めなさい、フロリーッッ!!」


 ただ1つ揺るがない事実があるとすれば、フロリー・ロートシルトには、一片の迷いもないということだろうか。

 何を言われようとも、彼女の顔は晴れやかなままだった。


「わたしはこの地に、この屋敷が建っていること自体が、我慢なりません。なぜ、わたしの母を殺した男と結託した領主に、税を納め続けなければならないのですか?」


 言われてみれば、まあ確かに。

 脱税は犯罪だけれど、敵の仲間にお金を納め続けなきゃならないんなんて、そんなの納得がいかない。


 それに節税できるならそれに越したことはない。

 困ったことに僕の力は脱税方面でも、極めて有効だと証明されてしまっていた。


「よって、わたしは決めました。ロートシルト家は、ここイエローガーデンより立ち退きます。……この、屋敷ごと」


 それは願ってもないことだ。

 これこそが僕とリアナ様が密かに望んでいた結末だ。


「まさか……いや、そんなことが、できるはずがない……。不可能だ……不可能だと言えっ、この悪魔の使いめっ!!」


 誰かにとっての天使は、別の誰かにとっての悪魔のようだ。

 僕はエドマンドに首を横に振り、フロリーさんを見た。


 フロリーさんは僕に注目していた。

 仇に向けていた厳しい表情をやわらげて、そのお姉さんはとてもやさしそうに微笑んでいた。


「ナユタ様、わたしはこれでも商人の娘。貴方方の魂胆には、既に気付いておりました」

「……それは、ちょっと罰が悪いね……」


「ナユタ様は、あの立派なお方、おやさしいリアナ様に、あるべきお住まいを与えて差し上げたいのですね」


 彼女から目線を落として僕は降参した。

 後ろめたいけれど、魂胆を認めるしかなかった。


「うん。この屋敷が欲しいかどうかと聞かれたら、欲しいに決まっているよ。だってリアナ様は世界を救ったんだ。この世界のみんなのために。……なのになんで、僕はあんな場所に、リアナ様を幽閉し続けなければいけないの……?」


 恐る恐る目線を上げた。

 するとフロリーさんは僕の魂胆を見抜いた上で、やさしく手を取って笑ってくれた。


 彼女の気持ちを利用しようとしたことが、僕は恥ずかしくなった。

 僕はエドマンドとあまり変わらない。

 弱った女性を言いくるめて目的を達成しようとした。


「ここは俺様んちだっ!! 俺様は惨めな下町暮らしなんて二度とごめんなんだよぉーっ!!」

「これまでのことは謝るわっ! これからは、本当の家族になりましょう、フロリーッ!」


 偽りの家族は見え見えの嘘を吐いた。


「フロリー、私はお前のことを愛している。厳しくしたことは謝ろう。だが、私は亡きお前の母のために、お前を守りたかっただけなのだ……! 信じてくれ、フロリー! 神とお前の母に誓うよ!」


 あまりに浅ましい嘘を。

本日、拙作「超天才錬金術師5巻」の発売日です。

もしよろしかったら、書店や電子書籍サイトでチェックしてみて下さい。

あかるくゆるゆるに楽しめるらくーな一作です。

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