・服従→嘘
祖国エルソラスへの帰路は、僕にとっては危険な賭けだった。
もしもギルバードたちが『預かり所から引き出したい』と言ってきたら、彼らへと正常に権利が移譲していないことに気付かれてしまう。
そうなったら僕は酷い目に遭わされて、どうしても引き出せないと知れた瞬間に、刃を向けられるだろう。
「天使ちゃん、これもお願い♪」
「はい、ベラ様……」
「ナユタ、こっちもだ!」
「今少しお待ちを、ギルバード様……」
『お預かり』の方ならば何も問題ない。
彼らとの『新規の契約』に則って、お預かりの品物を受け取り、それをあの世界に転送するだけ。
幸運なことに彼らの手持ちは僕の予想よりも遙かに多く、その金を使って各地の土産物やガラクタを買い漁っていた。
きっとあの時、僕とリアナ様に逃げられる可能性を彼らは想定して、多くの手持ちを用意しておいたのだろう。
「素直で結構。この先も我々におとなしく服従するならば、悪いようにはしませんよ」
「ありがとうございます、ライルズさん……」
子供だましの飴を受け取り、僕はすぐにそれを口に含んだ。
こんな物、今すぐ吐き出したい。
しかし今だけは、屈服した姿をやつらに見せなきゃいけなかった。
「もしエルソラスまでおとなしくいていたら、ギルバード様はお前の功績を王に口添えしてやってもいいと、そうおっしゃっています」
「本当ですか……?」
「ええ、小さな領地くらいは持てるかもしれませんね」
嘘臭い……。
そうやってリアナ様の次は、僕を騙し、また裏切るんだろう……。
「皆さんに服従します……。だからどうか、僕にもお情けを下さい……」
「いい子ですね。ククク……」
彼らを油断させるために、僕は絶望し、服従した姿を演じた。
そうすると、ライルズはとても気を良くした。
ライルズは僕を連れ歩き、あいつらと一緒にバカみたいに高いワインを買いあさった。
勇者パーティが聞いて呆れる……。
『魔王討伐凱旋の土産物』は、諸侯への最高の献上品になるとか、もうどこかの領主になったようなことをやつらは言っていた。
それに極め付きは――
「アンタたち、本当にあの天使ちゃんに領地を与えるつもり?」
「ははははっ、ベラ、君はあれを真に受けたのかね!?」
「愚かですね」
僕に吐いた嘘だ。
彼らの話が気になって盗み聞きをしてみると、案の定の答えがそこにあった。
「ならば訊くが、荷運び用の家畜に領地を与えるバカが、どこにいる?」
「キャハハハッッ、なにそれぇーっ、ひっどぉーいっっ♪ アンタらマジ外道でしょぉー♪」
「情け深いと言ってくれたまえ。分不相応の地位を得ても、彼を不幸にするだけだよ」
こんなやつらがもし領主なんかになったら、領地の人々は毎日を泣いて過ごすことになる。
そう思うと、最後の罪悪感も消えてなくなっていた。
リアナ様を裏切った彼らには破滅がお似合いだ。
僕と契約を結んだことを、早くやつらに後悔させてやりたかった。
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