・誰も彼も - ナユタ-男らしさ -
夫妻が去ると、僕たちはこれからの打ち合わせをした。
明日、僕たちはこの都を発つ。
王家の支配領域を離れたら、そこからまた敵との追いかけっこの再開だ。
リアナ様の予想によると、エドマンドは僕たちのイエローガーデンへの帰還を妨害する。
あの左大臣と彼が繋がっているとすれば、エドマンドは第三勢力がフロリーさんを支援していると深読みして、あらゆる行動を妨害しようとする。
そこでリアナ様はある大胆な策を提案した。
「嫌です! いくらリアナ様のご提案でも、それだけは嫌です!」
「私はナユタのことを想って提案しているのよ」
いや、策ではなく、人に恥をさらすことになる短絡的で愚かで安直な小細工というか……。
とにかく、僕としては極めて受け入れがたいことだった。
「フロリーさんも否定してよ! こんなの上手くいくはずないよ!」
「……あ。あ、いえ、その……ナユタ様のお気持ちも存じております……。が、面白い――あ、ではなく、わたしはっ、これは確実な方法かと存じますっ!」
「え、ええーーーー…………」
リアナ様はこうおっしゃった。
楽に、安全に、早く帰りたかったら、かわいい女の子の格好をナユタがすればいい、と……。
論理的に考えて効果的で、合理的だ。
男子のプライドが許さない、という1点さえ無視すれば。
「リアナ様、僕は男です! 身体は小柄ですが、男らしくありたいと常日頃思っています! それに僕には、奥の手がまだ――」
「ええ、そのカードは強力な盾だわ。けれど保険は、最後まで使わないからこそ意味があるのよ」
「そ、それはそうですが……っ、ですが女物の服なんてっ、僕にはちっとも……っ」
「お任せ下さい、ナユタ様! わたしがナユタ様を女の中の女して差し上げます! ええっ、必ずお似合いになりますともっ! 必ずかわいらしくしてみせますっっ!!」
フロリーさんはこの話に乗り気のようだ。
彼女はエンダー卿の深手のことをいまだに気に病んでいるようで、僕もまた落ち込んでいる彼女の姿をしばしば目撃している。
そんなフロリーさんが活発に自分から動こうとしている姿を見ると、手伝いは要らない、とはそう簡単に言えなかった。
「ふふ……決まりのようね」
「僕は男です。どんな格好をしても、僕は男です。どうかそのことをお忘れなきように、リアナ様」
「ごめんなさいね。この世界にいると、やはり少し退屈で……刺激に飢えているようなのよ」
「だからリアナ様は、僕に道化になれと……?」
「私は最初からこの予定だったわ。行きと違って、帰りはもうノーマークではないの。……それとも、襲われるたびに私が救援に出た方がいい?」
「ダメッ! もう二度と、あんな無茶はダメだよっ! わかったっ、わかったよっ、どんな格好でもするよっっ、だから命を大事にして!」
「ふふっ……そう、だったら決まりね」
と、そういうわけだった。
僕は安全な帰路のために、『男らしさ』という男が捨ててはならないものを、代償として差し出すことにした。
リアナ様もフロリーさんも、それで満足なようだし、もう、どうにでもなればいい……。




