・フロリー・ロートシルトの告発 - 横槍→勝利確定 -
「左大臣、今回は譲ってくれ。陰謀により商家が乗っ取られ、私を守護する騎士の1人が襲撃を受けた」
「さて、その判断を議会はどう考えるでしょうな? そんな娘のために、陛下が犠牲を払う必要はないでしょう」
左大臣の言葉を受けても、王は嫌な顔をするだけで反論をしなかった。
僕としてはここで振り出しに戻るのは嫌だ。何か手を考えないと。
『これはエドマンドたちからの横槍と見るべきかしら。国王としても貴族議会との対立は困るようね』
焦る僕とフロリーさんとは反対に、リアナ様は落ち着いていた。
『……だけど、思い出して。私たちが欲しいのは『承認』だけよ。ロートシルト家の所有権がフロリーにあるとこの王が認めてくれれば、圧力や実力行使は何も要らないの』
……そうだった。
僕にはフロリーさんの所有物を取り返す力がある。融通が利かないからこそ、絶対的な力が。
王がロートシルト家の所有権はフロリー・ロートシルトにあると認めてくれれば、これ以上はなんの支援も要らない。
フロリーさんは確実に家を取り返せる。
「フロリーさん、ここは提案なんだけど……」
「はい……。国王陛下や、叔父や叔母の手をこれ以上わずらわせるわけにはいきません。大義さえあれば、貴方があの力で取り返して下さいます……っっ」
そういうことだ。
この左大臣も、エドマンドも、このゲームのルールを勘違いしている。
相続権はフロリー・ロートシルトにあると、そう王が認めた時点でこの争いは終わりなんだ。
「国王陛下、僕たちの望みは最初からただ2つです。1つ、フロリー・ロートシルトをロートシルト家の跡継ぎと認めて下さい。2つ、エドマンドは領主代理ではないと否定して下さい。それだけで十分なんです」
僕たちの意図がわからず、国王含めてこの場の大半の者が首を傾げた。
それでどうやって、ロートシルト家を取り返すのだ、と。
「思い上がった子供だ。いいかな、少年。お前は実行支配という言葉を知っているかな? 権利だけ主張しても、エドマンドくんと領主は譲らないと思うぞ?」
左大臣はエドマンドとの繋がりを隠しもしなかった。
「ふふっ! で、それで認めるの、認めないの?」
「いいだろう、認めよう。国は一切介入しないが、権利だけは認めてやる」
「うん、悔しいけどそれで手打ちにするよ。そうだよね、フロリーさん」
フロリーさんは立ち上がり、スカートに手をかけて典雅に国王陛下にお辞儀をした。
「ナユタ様の仰せの通りに。当家のお家騒動にこれ以上は国王陛下を巻き込めません。ロートシルト家の所有権は、わたしフロリー・ロートシルトにあると、書類にしたためて下されば、それで十分にございます」
左大臣は当惑した。
僕たちに何か強い後ろ盾がいるのではないかと、そう疑ったかもしれない。
「約束しよう。ナユタ・アポリオン、貴殿には私らこれを」
「これは……指輪、ですか?」
複雑な意匠が込められた銀の指輪を、国王陛下から投げ渡された。
「貴殿とは友人となっておいた方がよさそうだ。貴殿への親愛の証として、ハゲ殿の件は、不問としよう」
「ほっほっほっ、ゲハでございます、陛下」
「このハゲめ……次はこうはゆかぬぞ」
脱税の証拠を掴み損なった国王陛下は、ビンチャゲハ男爵を一時睨みつけ、続いて僕に笑みを送った。
「諸君、1つ覚えておいてくれたまえ」
「は、はい……っ!」
それと罪を見抜かれて震え上がるフロリーさんにも。
「諸君らは何か勘違いしているようなので、念のためとなるが……」
王は玉座を立ち、王杖を両手をかけてしばらく間を置くと、重々しく、少し責めるような声でこう言った。
「脱税は、犯罪だ」
「ははははっ、いやまったく! 至言ですな、陛下!」
「このゲハめ……!」
「ハゲにございます、陛下!」
こうして僕たちは、ロートシルト家の所有権がフロリー・ロートシルトにあると明文化した。
差し押さえの条件はこれにて整ったはずだ。
残る仕事は僕自身が五体満足でイエローガーデンに戻り、ロートシルト家の差し押さえを実行――いや、執行するのみだった。




