・フロリー・ロートシルトの告発 - ゲハ→国王 -
フロリーさんと一緒に緊張しながら謁見の間を訪れると、ホッとする顔と、ここにあってはいけない顔があって驚いた。
「エンダー殿、本当に傷は大丈夫なのかね……?」
片方はあの着飾らないビンチャゲハ男爵。
「はは……きっと罰が当たったのでしょう……。私は宮仕え、我が身を犠牲にすれば、直訴は可能だったのです……」
そしてもう片方は、寝ていなければならないはずのエンダー卿だった。
「バカなことを言うな、君の立場で何が言えたというのだね。やあ、世話になっているね、ナユタくん、フロリーくん!」
「きて、くださったのですね……叔父様、男爵様……」
「ああ、私も証言しよう。そうしないと、私はただのずるい大人になってしまうからね、ほっほっほっ」
国王が謁見の間に現れると、臣下である彼らはひれ伏した。
僕とフロリーさんは床にひざまづき、頭を垂れた。
「右大臣より既に詳しい話は聞いた。そなたがロートシルト家のフロリーだな?」
「は、はい……っ! お、恐れながらっ、陛下に、直訴させていただきに参りました……っ!」
この国の王様はまだ若かった。
30代後半ほどの彼は、見るからにフロリーさんに同情しているようだ。
「そしてそなたは、天使アポリオンか」
「はい、ナユタ・アポリオンともうします。ちょっとした縁からフロリーさんと出会い、彼女の手助けをすることになりました」
「勇者リアナ殿は息災か?」
「ええ、まあ……。傷が癒えず、外の世界には出られませんが……僕がリアナ様をお預かりしております……」
とっさに少し警戒した。
僕とリアナ様は国家運営に便利なアーティファクトをいくつか手にしている。
それを彼が欲しがってもおかしくはなかった。
「興味深い。む、そこにいるのは、エンダーかっ!? おい、刺されて重体であると聞いたぞっ、傷は大丈夫なのか……っ!?」
「は……っ。死に、かけましたが、ナユタ様とお医者様のおかげで、こうしてどうに……うっっ?!」
陛下も右大臣様も、エンダー卿の苦悶の様子に心配をしてくれた。
隣の男爵様がそんな彼を壁沿いのイスに座らせて、その肩をさすった。
「無理をするな、エンダー。陛下、いつぞやのハゲの男爵でございます。エンダーはこの通り、真面目さと釣りの腕が取り柄の男でしてな」
「ビンチャゲハ殿、お前も一枚噛んでいたか」
「ほっほっほっ、上辺一枚だけにございます、陛下」
国王陛下はナユタ・アポリオンと、これからガサ入れを行う質屋の経営者であるビンチャゲハ男爵を3度も交互に見て、眉をしかめた。
「なるほど……そういうことか。調べさせても何も出てこないはずだ……」
「ほっほっほっほっ、なんのことですかな、陛下」
「このタヌキめ……」
「ハゲにございます」
繋がりを見抜かれているようでヒヤリとした。
国王の心証次第では、手のひらを返される可能性だってあった。
「心配はいらぬ。王の名の下に特例を認め、相続権をフロリー・ロートシルトに――」
「お待ちを、陛下。それはいささか問題がございましょう」
「左大臣、今さら何を言う」
王様から見て右にいるのが右大臣。左にいるのが左大臣らしい。
左大臣はヒョロリと長い髭を伸ばしたうさんくさいおじさんで、僕たちを邪魔者を見るかのような目で見下した。
「そんな特例を認めたら、王家による家の乗っ取りと見られますぞ。本当にこの沙汰でよろしいのですかな?」
この左大臣と呼ばれる男、この場のほぼ全員に嫌われているようだ。
国王陛下もうんざりとしていた。




