・ビンチャゲハ男爵の質の草 - 脱税→模様替え -
「男爵。貴方は僕に、脱税の手伝いをしろと……?」
「えっ、脱税……っ!?」
「鋭いですな、ナユタくんは。そう、数日中にガサ入れがあるとのタレコミがありましてな、いや、ちょうどよかった……っ」
それはいいタイミングで僕が現れたものだ。
僕ならここにある全てを瞬時に消せる。
そして必要なときにこの場所に一瞬で戻せる。
「これらの持ち主は、まあ貴族が多いですな。上は公爵、下は下級騎士まで、皆節税を大変勉強されておられる。いや熱心なことですな」
「いえ、脱税は、犯罪ですのよ……?」
「そうは言いますが、しかし税金というのはいささか、高すぎるとは思いませんかな?」
「それは……まあ、そうですけれど……」
「もっとフランクに考えましょう。徴税官と納税者は、騙し騙されの関係。我々は誰しも納税というゲームのプレイヤーなのですよ」
それは犯罪者側の理屈のような……。
だけどまあ、高い税金を満額払いたくないという気持ちも、わからなくもないけど……でも、ううーん……。
「これを預かったら、偉い人に紹介してくれるの?」
「おおっ、預かって下さいますかっ!? これは助かります!」
これだけの品だ。
隠し抜いたら持ち主はとても感謝するだろう。
もしかしたら感動して、王様に直訴の口利きを積極的にしてくれるかもしれない。
「残念だけど……」
「そうですっ、わたし、恩人に犯罪なんてさせられませんっ! お断りしますっ!」
「僕の力は、僕の意思では発動しない。ゲハ男爵様は、ただこう一言、僕に命じればいいんだ。この隠し倉庫にある物全てをナユタ・アポリオンに預ける、と」
「あのっ?! ナユタ様っ、これは犯罪ですっ、犯罪なのですよ……っ!?(」」」
そうだけど……。
でもそうしないと話が始まらないし……。
それに……実際、この国の税金って高い思う……。
節税したくなる気持ちもわかる。
お店を開いてからは特に。
「オホンッ、では失礼して……。この隠し倉庫にある物全てをナユタ・アポリオンに預ける。預かって下さいますかな、ナユタくん――おおっっ?!」
財宝は金と銀の光となり、僕の中に消えた。
きっとリアナ様の鑑賞に堪えうる物も、まあ多少はまぎれているだろう。
「確かにお預かりしました。また引き出したいときは、僕に返却を命じて下さい」
「おぉぉぉ……っ、正しく天使! 貴方は脱税の天使です、ナユタくん!」
「あの、節税、じゃなかったですか……?」
「おっと……まあ、おおむね同じことです。では、報酬はハゲタカどもの家捜しが終わった後に……」
「うん、それがいいと思います。査察が終わったら、ここに隠し財産を預けている偉い人に、僕たちを紹介してくださいね」
これにて契約成立。数日間を観光して待てば、王への直訴の道が大きく拓ける。
ロートシルト家の正式な所有権がフロリー・ロートシルトにあると王に宣言してもらえば、後はイエローガーデンに戻って、あの気分の悪い悪党一家から家を差し押さえるだけ。
いや、それにしても、質屋……質屋か。
質屋という発想はなかった。
案外、そういった使い方もありなのかもしれない。
どうやら質屋というのは、便利な貸金庫という、もう一つの顔を持っているようだ。
僕の能力は、確かに質屋としても理想的な性質を持っている。
そう密かに思いながら、俺はフロリーさんと用事を終えた質屋を出て、軒先で男爵とお別れをした。
「でも、僕に見張りを付けなくていいのですか?」
「大丈夫ですよ、もういま――あ、いや、歳を取ると嫌ですなぁ、つい思っていたことが口に出る。ハハハ、ま、数日だけお待ちを」
もう見張りは付けているから、気兼ねなく観光を楽しめばいいそうだ。
俺たちは朗報を持って、少し寄り道を楽しみながらエンダー家へと引き返した。
湖で採集した綺麗で冷たい水と、農家で仕入れた野菜を出して見せると、シオン・エンダー婦人はそれを使って美味しい昼食を作ってくれた。
僕の力は主婦からしても非常に便利で助かるそうだ。
テーブル、ベッド、棚にタンス、物置の雑多な品々。一言頼めばそれらを一時的で消せてしまう。
ならば模様替えだって思うがままだ。
喜ぶシオン婦人と一緒に、フロリーさんまで楽しそうにはしゃぐのを見ると、僕も嬉しくなった。
融通の利かない能力だけれど、使い方次第では凄腕の掃除屋さんにも、引っ越し屋さんにもなれる。
当然、脱税を手伝う悪い預かり屋さんにも……。
ちなみにピカピカに掃除され、模様替えに大きく様変わりした自宅に、夕方に帰ってきたエンダー卿がひっくり返ることになった。
『ふふふ……なんでも預かるリフォーム屋さんに、転職してみてはどうかしら?』
手を広げると、仕事がとっちらかりそうで気が進まない。
だけど実際、そちらの方が預かり所よりもずっと儲かりそうだった……。




