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・ビンチャゲハ男爵の質の草 - 質屋→抜穴 -

「男爵様なのに、本当に、質屋さんをされているのですね……」


 商家の娘フロリー・ロートシルトには、興味深い光景のようだ。

 彼女は質屋の看板を見上げて、そのたたずまいを熱心に観察している。

 男爵もその姿に気をよくした。


「都ではそう珍しくもないことですな。領地に課せられた税を納めるためには、金が要るのですよ。麦ではなく金がね。さ、どうぞお二方」


 男爵がステッキで店のドアを叩くと、中から若い女性店員さんが駆け出てきた。

 男爵は本当にこの質屋のオーナーだった。


 僕たちは質屋に入ると、質流れ品でいっぱいの物珍しい店内を満足に眺める間もなく、地下の倉庫へと案内された。


 倉庫は質草でいっぱいだった。

 銀の燭台や数々の化粧箱。価値のある衣料品や、珍しい物では液体の入ったガラス瓶など、妙なものや、いかにもお金になりそうな物がひしめいている。


「それで何を預かればいいんですか?」

「ナユタくん、私のことはハゲでいいよ」


「よくありませんよ」

「ほっほっほっ、若いのにまじめだねぇ、君は」


「それよりどれを……?」

「それはね、この下の全てだよ」


 彼のステッキが床のくぼみに刺さった。

 彼はステッキをくるりと回して見せると、床はカチリと鍵でも開いたかのような物音を立てる。


 店の人がそのステッキを代わりに握って引っ張ると、なんと床が持ち上がって狭い下り階段が現れた。


「あの、男爵様……? この下に、いったい何が……?」


 雲行きが怪しくなってきて、フロリーさんが僕の疑問と同じ質問をしてくれた。


「質草だよ。店の帳簿には記載されていない物だがね」


 店の人がランプを持って下ってゆくと、照明器具に火を移したのか下が少し明るくなった。

 俺とフロリーさんはその階段を下った。


「こ、これを……!? ナユタ様に、預からせる、のですか……!? あっ……!」


 上も雑多なら下も雑多だった。

 ただ下の隠し倉庫は、正しくは宝物庫と呼ぶ方が適当だったかもしれない。


 金貨を額縁の中に敷き詰めた物だとか……。

 純銀で作られた大きな蹄鉄だとか……。

 宝石を散りばめた犬の首輪のようなものだとか……。

 黄金の耳掻きだとか……。


 まったく意味がわからないけど、価値だけは確かな物ばかりが大切に収蔵されていた。


「あの……これを、僕が預かるんですか……?」

「そうなる」


「なぜ……?」

「ここにあると困るのだ。かといって、他の隠し場所のあてがあるわけでもなくてだね。輸送するにも、それだけで不用心だろう?」


 昨日、僕は思った。

 名前しか知らないけど、この男爵はなんかうさん臭いと。


 そして今日も僕は思った。

 この男爵はうさん臭い。

 いやそれどころじゃない、怪し過ぎる……。


「これ、全部本物です……っ! あっ、これは亡くなった人気画家の……っ、これ、売ればとんでもない価値になるはずです……っ」

「さすがはロートシルト家のご令嬢。目利きの腕は親譲りのようですな」


 でも、なぜ……?

 なぜ僕がこれを預かる必要があるのだろう……。


『脱税ね』

「え……?」


 リアナ様の声に僕はつい間抜けな声を上げてしまった。


『ここは質屋よ。そしてここは、帳簿には記載されていない品々が保管された、隠し倉庫。都合の悪い物を隠すには最適ね』


 脱税。その視点で見ると、金貨を詰め込んだだけの意味のわからない絵画にも意味が生まれてくる。

 店の利用者はお金を預けたのではない。ただ、お金や価値のある品を隠したかったんだ。


 資産が多いとそれだけ税金を取られてしまうから。


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