・王都への長い道 - 危機→リアナ様 -
『わたしっ、だから言ったではないですか……っ』
『ふふ……2人とも何を驚いているの? 人気のない真っ暗な行き止まり。とても理想的な環境ではないかしら……?』
暗くて、人気がなくて、退路のない行き止まり。
そこにリアナ様は敵を誘い込めとお命じになられた。
それって、どういうこと……?
それって、え、まさか……。
「へっへっへっ、今度は逃げられねぇぜ、クソガキィッ!!」
「おじちゃんたちの恐ろしさを教えてやんよーっ!」
「ま……待って……」
それはダメだ!
だって、そんなことをしたら……っ!
「待つわけねーだろっっ!!」
「おじさんたちに言ってるんじゃないっっ! 止めて、リアナ様ッッ!!」
リアナ様は別に、あの世界に幽閉されているわけじゃない……。
ただ自分の意思で、自分自身を僕に預けているだけだ。
だからリアナ様は外に出ようと思えば、いつでも出られる……。
僕はそれを止められない。
『ナユタ・アポリオン。私リアナは、私の返却を貴方に要求する。さあ、私を外に出しなさい!』
「い……嫌だっ!」
嫌だと言っても能力は自動的に発動し、実行される。
それが僕の融通の利かない力だ……。
「へ……っ!?」
「ピンクのチョウチョが……お、女ぁっっ?!」
勇者リアナは全身を刺された状態だというのに、颯爽と現世に蘇って、そしてその剣を悪漢へと閃かせた。
「お眠りなさいっっ!!」
「ゲピィィッッ?!!」
「ンゴオホォッッ?!!」
情け深い峰打ちだった。
成敗が済むとリアナ様は剣を腰に戻し、そして痛む傷にぎこちなく僕へ振り返ると、辛いはずなのに余裕に微笑んだ。
「ッッ……。ナユタ、私を、預かって……」
「なんて無茶をっっ!! あっ……!?」
再び桃色の蝶となってリアナ様が僕の中に消えると、僕は膝を突いてうずくまっていた。
一瞬で敵をやっつけて、一瞬で倉庫世界に戻る。
すごく斬新で強力な戦い方だけど、それで傷が悪化でもしたら僕は笑えない!
リアナ様はギルバードたちに刺されて、即死寸前の身体だったのだから!
『ふぅ……そこに大きなゴミ箱があるわ。その人たちをこのロープで拘束して、そこに捨てなさい』
そのロープは昔、捕虜や悪党を拘束するために僕が預かっていた物だ。
拘束はサポート役の僕の担当だった。
「手伝います……」
「あ、フロリーさん……。いや、フロリーさんまで外に出てきちゃダメだよっ」
「でもこの人たち、2人でないと持ち上がらないと思います……」
「それは、そうだけど……」
「それに見ているだけなのがわたし、辛くて……。お願い、手伝わせて……」
フロリーさんと一緒に気持ちよく眠ってるヤクザ者を持ち上げた。
「これが終わったら戻ってね。それと僕の代わりに、リアナ様のことをお願い……」
「ごめんなさい、わたしのせいで……」
「フロリーさんのせいじゃないよ。僕がうかつだったんだ」
一緒に汗を流しながら、重いヤクザ者2名を木製の大きなゴミ箱に捨てると、フロリーさんは倉庫世界に帰ってくれた。
『あのお婆さんに、お別れを伝えてからにしては、どうかしら……』
「リアナ様、傷は大丈夫なのですか……?」
『出血はしてないわ。ただ痛みが……ッッ……。少し、ぶり返してしまっただけね……。ふふ……ずっと見ているだけだったから、私、力になれて嬉しいわ……』
「もうこんな無茶は止めて下さいっ、死んでしまいますっ!」
『だって、歯がゆいのよ、とっても……』
この件については後で話し合おう。
今はあのローズお婆さんのお別れを伝えて、王都まで歩いてゆくことにしよう。
日の落ちたこんな時間だけれど、リアナ様が作ってくれた活路だ。
この活路をムダになんてできない。
落ち着いて受け入れてみれば、リアナ様の判断は正しかった。
あのまま僕が逃げ切ったところで、あのヤクザ者は仲間たちに、白い髪の少年がゆいいつの手がかりであると広めてしまうだろう。
だからあの人たちは、ここで倒さなければならなかった。
彼らが発見され、仲間に白い髪の少年を追えと命じる前に、僕は王都に少しでも近付かなければならない。
逆に言えば、王都に入ってさえしまえば、エドマンドとその配下は僕たちに手を出せない。
王のお膝元で襲撃事件なんて起こせば、それこそ王の目に止まってしまう。
だから今は急がなければならなかった。
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