・王都への長い道 - 夕闇→追っ手 -
夕方に馬車駅に着くと、馬車ギルドの人が宿屋を紹介してくれる。
馬車ギルドとしてはトラブルでお客さんが消えては商売上がったりだから、その人の望むグレードに合わせて、安全な宿を斡旋するようにしているそうだ。
「じゃあまた明日ね、ナユタくん」
「うん、また明日。ローズお婆ちゃん」
あのお婆さんはお金持ちだった。
海から取り寄せた美味しいカニ料理が食べられる宿を選んだり、お肉につられたりと、まったく胃腸の元気なご老人もいたものだった。
僕の方は目立たないように中の上くらいの宿を選んだ。
本当はもっと節約したかったけれど、フロリーさんのことを考えると、これ以上グレードを下げられなかった。
王都まで馬車で4日。今日がその3日目。
昼は馬車に揺られ、夜はフロリーさんと見知らぬ宿に泊まる生活も今日で一端終わりだ。
「ゴッゾ……いたか……?」
「いやいねぇし。影もねぇし。一体全体、どうなってんだよ、オッゾ……?」
「……さすがにおかしい、よなぁ、ゴッゾ?」
「おかしいに決まってらぁ! ボスに頼んで100人集めたんだぜぇー、数えてねーけどーっ! なのに……なんでいねぇしーっ!?」
けれど僕は、馬車ギルドの人に宿へと引率されるその道中で、通りの奥に追っ手の姿を見つけてしまった。
「お客様? どうされました?」
「あ、あの……僕、ちょっと寄るところがあるから……」
あれはイエローガーデンでフロリーさんに絡んでたヤクザ者だ。
彼らに見つかったらまずい……。
「それは困ります! 馬車ギルドとしては、お客様には安全な旅を楽しんでいただけなれば……私の首が飛んでしまいます!」
「ちょ、大きな声出さないで……っっ」
そのヤクザ者たちが、空気を呼んでくれない引率のお兄さんのせいで僕に気付いた!
「あーーーっっ、おめぇーっ、あん時の、クソガキじゃねーかヨォッッ!!」
「おめぇーっ、おめぇよぉっ、なんてことしやがんだよ、おめぇよぉーっっ!! おめーのせいで俺ら、兄貴に100回も殴られたんだからなーっっ!!」
「こっちは1000回だ! 見ろよ、この顔をよーっっ!!」
2人は僕の正面にやってきた。
馬車ギルドのお兄さんは、すくみ上がって道を開けてしまった。
お客様の安全な旅がなんとかって言ってたけど、結局お兄さんは僕を見捨てて逃げた。
「おじさんたち誰?」
「しらばっくれんなっ、てめーが逃がしたフロリーはどこだよぉーっっ!?」
「さあ?」
「さあ? じゃねーよっ、せめてどっちに行ったか言えや、このバカチンッ!」
「あっち」
「嘘吐けやこのクソガキィーッ!」
「今度という今度は、ぜってー逃がさねぇんだぞっ!」
旅の中で気付いたことが1つある。
エドマンドは本気だ。
旅の道中、フロリーさんを探すヤクザ者の姿が絶えなかった。
さて、この場から逃げること自体は可能だ。
しかし彼らには、かなりの数の仲間がいるそうだ。
本当に100人もいるか疑わしいけど……。
「大人の恐さを教えてやるぜぇーっ、ガキィッッ!」
こうなると、ここから先は馬車の旅を諦めなければならないだろうか。
王都まで馬車であと半日の距離を、馬車を使わずに自分の足で切り抜けなければならない。
客観的に見て、それはかなり困難なことに感じられた。
『ナユタ、そこの路地裏に入って』
リアナ様……?
『そこに貴方の活路があるわ』
『えっ!? あのっ、待って下さいっ、あそこには――』
『いいの。さ、この2人をあの路地裏に誘い込みなさい』
「わかりました、リアナ様」
フロリーさんはリアナ様に反対しているようだけど、リアナ様が間違えるはずがない。
僕は一歩後ずさり、彼らの注意を十分に引いてから……また逃げた!!
「あーーこらーーっっ、逃げるなクソガキーッッ!!」
「男なら拳で勝負だっつってんだろがーっっ!!」
リアナ様のご命令通りにその路地裏に入り込み、そして――
「え…………?!」
すぐに僕は、道を塞いで居を構えているボロい酒場にぶち当たった。
しかもその酒場には、鍵がかかっている……!
えっ、えっ……?
活路、どこ……?
リアナ様……っ!?
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