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22/51

・王都への長い道 - 旅立ち→老婆 -

また投稿先を間違えていました!

本日、あと2話投稿します、ごめんなさい!!

・少年


 さて、屋敷の差し押さえに失敗した僕たちが、その後にどうしたかというと。

 実はまだ、屋敷を差し押さえるというプランを諦めていなかった。


 リアナ様とも話し合ったけど、あの時は屋敷の所有権があいまいであったがために失敗した。

 リアナ様と僕は同じ見解に落ち着いた。


 だったらやることはシンプルだ。

 認めてもらえばいい。

 ロートシルト家を実行支配しているのが、フロリーさんの義父エドマンドであろうと関係ない。


 彼が大貴族である領主と繋がっていて、法律などなんの意味もないとしても、そんなことは問題にならない。


 屋敷の正当な所有者はフロリー・ロートシルトであると、この国の王が認めさえすれば、差し押さえは可能だ。

 だって僕たちは神様に創られた存在で、神様は人間の縄張りなんて知ったこっちゃないのだから。


 よってフロリーさんがこれからしなければいけないことは、王都行きの乗り合い馬車に乗り、国王に直訴することだった。


 国王がフロリー・ロートシルトを、ロートシルト家の正統な跡継ぎであると認めてくれさえすれば、後は僕たちだけであの屋敷を取り返せる。


「まあ~、王都のお婆ちゃんのところに……?」

「そうなんだ。お婆ちゃんに会うついでに、王都でちょっとバイトをして、遊び回ろうかなって思って」


 でもそれはフロリーさんにはできない。

 馬車駅はヤクザ者たち監視され、うかつに近付こうものなら、彼女はすぐに屋敷へ連れ戻されてしまう。


「正直ね~。でも~、ついででも嬉しいものよ~。わざわざ遠くから、孫が訪ねてきてくれるんだもの~」

「そうかな……」


「そうよ。こんなにかわいいお孫さん、羨ましいわ~」


 もちろん、フロリーさんが徒歩でイエローガーデンを出ても結果は同じだろう。

 敵が街道を見張っていないはずがないのだから。


「そういうお婆ちゃんもお上品でかわいいよ。……お婆ちゃんは、何をしに王都に?」

「あら嬉しい! 私は旦那のお墓参りよ。あちらにお友達がいるから、そのついでね~、ふふふ~」


 フロリーさんとリアナ様は僕の瞳を介して、あのランプが煌びやかに灯る倉庫世界で、この乗り合い馬車の旅を優雅に楽しんでくれているはずだ。


 同席者とのお喋りを楽しむこのお婆さんと、しれっと嘘を吐く僕のやり取りを眺めながら。


 瞳に映るのは高く晴れ渡った青空。白く輝く大きな雲。春を謳歌する木々の淡い輝き。

 全てが自由で気持ちのいい旅道だ。


 端から見れば1人旅でも、僕からすればフロリーさんを交えた3人旅なわけで、美しい光景をあの窓を介して共有できていると思うと、それだけでとても嬉しかった。


「はぁ、羨ましいわ……。うちの孫なんて、2年に1回しかきてくれないのよ~……。はぁ、あなたのお婆さんが羨ましい……」

「だったら王都に着くまでの間、僕がお婆ちゃんの孫になるよ」


「まあっ、ふふふ~っ……。とっても面白いわ、あなた」


 ガタンゴトンと、車輪が硬い音を響かせている。

 その音色を聞きながら、僕はのんびりと王都へ運ばれていった。


 懸念事項を1つ上げるとするならば、フロリーさんを守ったときにこの顔をさらしたことだ。

 もしあのヤクザ者のおじさんたちに見つかったら、疑われて一悶着を起こすことになる。


「今朝焼いた物なのだけど……よかったら1つどうかしら~?」

「あ、美味しそう……。でもいいの……?」


 ぼんやりしていると、乗り合い馬車のお婆さんにほんのり甘い匂いのする手焼きのパンをもらった。

 口に入れてみると、バターとメープルシロップの匂いがふわりと広がった。


「楽しいお喋りのお返しよ。……何か飲み物があれば、もっとよかったのだけど……」

「本当だね。冷めた飲み残しの紅茶でもあれば、今すぐそれにすすり付いたんだけど」


 そのパンは甘く香ばしくて美味しかった。

 質の悪いパンギルドのパンとは大違いで、硬い小石や砂も入っていなかった。


「すごく美味しいよ。あ、そうだ、お婆さん」

「あら嬉しい。なあに、ナユタくん?」


「そういえば僕……紅茶を飲み残していたみたい。よければどうかな?」

「まあ~っ!? 手品師さん……っ!?」


 リアナ様が飲みかけの冷めた紅茶を下さった。

 僕は引き出されたそれを手のひらに乗せて、お婆さんに差し出す。


「そんなところかな。お茶、いらない……?」

「いただくわ。……あら、美味しい~……」


 僕はお婆さんの孫になりすまして、王都への旅を順調に進めていった。


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